スズキ・SP370

スズキSP370：日本のモーターサイクル史に刻まれた異色のデュアルパーパス

1978年、スズキ株式会社（当時：鈴木自動車工業株式会社）は、4ストロークエンジンを搭載したデュアルパーパスモデル、SP370を世に送り出しました。これは同社初の4ストロークオフロードバイクであり、既に4ストロークロードモデルであるGSシリーズを展開していたスズキにとって、新たな市場への挑戦を象徴するモデルでした。

スクランブラーをルーツとする個性

SP370は、一般的にデュアルパーパスバイクとして分類されますが、そのルーツは駐留米軍によって日本に紹介されたスクランブルレースにあります。ロードレーサーをベースに軽量化しオフロード仕様に改造したマシンで競われるこのレースで使われた「スクランブラー」が、SP370の設計思想に大きな影響を与えました。そのため、後のエンデューロマシンや、公道走行も可能なデュアルパーパス、マルチパーパスモデルとは異なる、独特のキャラクターを備えています。オンロード、オフロードどちらにも特化していない、まさにスクランブラー的な性格がその特徴と言えるでしょう。

軽量化を追求した設計

SP370は、徹底的な軽量化を追求した設計が大きな特徴です。空冷単気筒2バルブOHC 369ccエンジン（内径×行程：85.0mm × 65.2mm、ウエットサンプ潤滑方式）は、それまでのスズキの軽量・ハイパワーな2ストロークモデルTS・ハスラーシリーズの後継として開発されました。アルミリム、アルミドリブンスプロケットの採用に加え、電装系の簡素化、そして当時としては珍しいハンドルのブリッジ省略など、徹底した軽量化へのこだわりが見られます。排気量が369ccに設定されたのも、軽量化とパワーバランスの最適解を追求した結果です。400cc試作車は369ccモデルより10kgも重くなったことから、この数値にたどり着いたことがわかります。その結果、乾燥重量は123kgを達成。同時期の他社モデル、ヤマハXT500（139kg）、ホンダXL250(K)（140kg）と比較しても、圧倒的な軽さを誇りました。

軽快な走りと短命な生涯

軽量な車体と中回転域の太いトルクを武器に、SP370は軽快な走りを提供しました。当時の評価も高く、多くのライダーを魅了しました。しかし、その独特のデザインと、オンオフどちらにも中途半端なスクランブラー的な性格、そして250ccクラスの軽二輪とは異なり車検の対象であったことなどから、ユーザーへのメリットが十分に訴求できませんでした。そのため、発売からわずか2年で国内販売は終了してしまいます。

輸出モデルと後継シリーズ

国内販売終了後も、SP370は輸出モデルとして販売されました。さらに保安部品を省略し、クローズドコース走行を主眼とした兄弟モデルDR370も存在しました。そして、SP370の技術は、後のスズキの4ストロークデュアルパーパスモデル、DRシリーズへと受け継がれていきます。DR400/500など、SP370から派生したモデルがDRシリーズの礎を築いたと言えるでしょう。

主要諸元

メディアへの登場

SP370は、仮面ライダーシリーズのバイクとしても登場しています。「仮面ライダー (スカイライダー)」のスカイターボ、「仮面ライダースーパー1（劇場版）」のブルーバージョンが、SP370をベースに製作されました。

SP370は、その短命な生涯にも関わらず、スズキのモーターサイクル史、そして日本のモーターサイクル文化に独自の足跡を残した、個性的な一台と言えるでしょう。

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