スタンフォード伯爵

スタンフォード伯爵家：栄華と断絶の物語

1628年、イングランド貴族に新たな伯爵位が誕生しました。それが、本稿で扱うスタンフォード伯爵位です。その歴史は、グレイ一族という名門貴族に深く根ざしており、初代サフォーク公ヘンリー・グレイの弟ジョン卿を祖とする家系から生まれています。

遡ること1603年、ジョンの孫にあたるヘンリー・グレイが「レスターシャー州グロビーのグレイ男爵」に叙爵されます。この男爵位が、後にスタンフォード伯爵位へと昇格する礎となりました。それから25年後、男爵位を継承したヘンリー・グレイ(2代男爵)が、1628年、ついに「スタンフォード伯爵」に叙位されたのです。

初代スタンフォード伯爵は、イングランド内戦では議会派として戦いました。その息子トマスは、議会派の有力者として国王チャールズ1世の裁判で判事を務め、死刑執行令状にも署名した人物として歴史に名を残しています。しかし、彼は父に先立つ1657年に亡くなり、伯爵位はトマスの息子、2代伯トマスに継承されました。

2代伯は、ランカスター公領大臣や商務庁長官を歴任し、そのキャリアは政治家としての能力の高さを示しています。彼の死後、爵位は初代伯の三男の息子、ヘンリー(3代伯)が継承しました。その後3代にわたって父から子へと伯爵位が継承され、一族は繁栄を続けました。

4代伯ハリーは、襲爵前はレスターシャー選出の庶民院議員を務めていました。彼は、2代ウォリントン伯爵の娘であるメアリー・ブースと結婚し、義父の死後には広大な領地と財産を相続する幸運に恵まれました。5代伯ジョージは、スタッフォードシャー選出の庶民院議員やチェシャー統監を歴任し、1796年には「ウォリントン伯爵」と「デラマー男爵」にも叙せられました。侯爵位への叙爵を打診されたこともありましたが、これを辞退し、スタンフォード伯爵の称号を保持し続けました。

6代伯ジョージ・ハリーも庶民院議員やチェシャー統監を務め、その政治活動は一族の伝統を引き継いでいました。しかし彼の息子ジョージは父に先立って亡くなり、伯爵位は6代伯の孫、7代伯ジョージが継承することになります。7代伯は競馬のパトロンとして有名でしたが、彼の死によってウォリントン伯爵位とデラマー男爵位は廃絶しました。

残るスタンフォード伯爵位とグロビーのグレイ男爵位は、4代伯の曾孫であるハリー(8代伯)が継承しました。彼はケープ植民地に移住し、生涯をそこで過ごしました。8代伯の爵位継承については複雑な問題がありました。現地人女性との間に生まれた子供たちは、正式な結婚前であったため非嫡出子とされ、爵位継承権は認められませんでした。結婚後に生まれた娘も同様に継承権は得られず、爵位は8代伯の甥であるウィリアム(9代伯)に継承されたのです。

9代伯の死後、爵位は息子のロジャー(10代伯)に継承されました。10代伯はインド大臣の議会担当秘書官を務めたり、オルトリナム市長を務めたりと政治・行政に携わりましたが、1976年に子を残さず死去しました。これにより、長きに渡り続いたスタンフォード伯爵家は、ついに断絶を迎えたのです。

スタンフォード伯爵家は、チェシャー州オルトリナム近郊のダナム・マジー・ホールを本邸としていました。この邸宅は、10代伯によってナショナル・トラストに寄贈されています。その他、スタッフォードシャー州のエンヴィル・ホールや、レスターシャー州グロビーのブラッドゲート・ハウスも所有していました。特にブラッドゲート・ハウスは、365の窓、52の部屋、12の煙突を持つ壮麗なジャコビアン様式の建物で、「カレンダー・ハウス」の異名で知られています。

このように、スタンフォード伯爵家は、イングランド内戦から近代まで、政治、経済、社会の様々な場面で活躍した名門貴族でした。しかし、10代伯の死をもってその歴史に幕を閉じ、輝かしい系譜は、歴史の頁に刻まれることとなったのです。彼らの残した遺産は、数々の邸宅や、歴史書に記された業績として今に伝えられています。

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