統監

統監（とうかん、英語: lord-lieutenant）

イギリスにおける統監は、地方行政と軍事に関連する重要な官職である。この職位が初めて設けられたのは、1539年から1540年にかけて、テューダー朝のヘンリー8世が恩寵の巡礼後の不安定な情勢に対応するために側近のジョン・ラッセルをその地位に任命したことが始まりである。当初は地方の貴族が任命される非常職だったが、その後の時代を経て、統監の役割は次第に変化していった。

イングランドでの統監の役割

初期の統監は地方の軍事長官として位置付けられ、州ごとに民兵隊を徴兵し訓練することが主な職務であった。しかし、1551年にエドワード6世の摂政ノーサンバランド公がこの職位を恒久化させ、エリザベス1世が統監の権限を拡大した。この時期、対スペイン戦争などの背景が影響し、軍事力の集中や戦時体制の整備が求められた。

エリザベス1世の時代になると、統監の職務には地方行政の業務も追加され、具体的にはカトリック教徒の取り締まり、徴税の監督、地方裁判官である治安判事の監督とその任免権などが含まれるようになった。このため、統監は地方と中央との連携を担う重要な役割を果たし、大貴族や枢密顧問官など、中央からの実力者が任命されることが多くなった。

ただし、地域行政はしばしば副統監に委譲されることがあり、治安判事と統監が兼任するケースも存在した。こうした制度的変化は、統監と治安判事の権限拡大により、従来の州長官（シェリフ）の権限を縮小させた。特に1687年、ジェームズ2世がカトリック政策に関し統監に対する質問状を出し、反対派の統監や治安判事を解任する事例が見られた。

1871年にはエドワード・カードウェルが軍事改革を行い、統監の軍事権が廃止された以降、他の権限も次第に弱まり、現在では名誉職としての位置づけがされている。

スコットランドとアイルランドの統監

統監職がスコットランドにおいて一般的になったのは、18世紀末の1794年に国王からの勅令によるものである。それ以前にも一時的任命として存在したが、恒常的なポジションとして確立されたのはこの時期であった。

アイルランドの統監は「アイルランド総督」と訳されることが多く、1831年に施行された首席治安判事法により県ごとに統監の資格が設けられた。1922年にアイルランド自由国が成立すると統監の任命は停止されたが、関連する法案は残り、1983年に法律整理法によって正式に廃止された。しかし、北アイルランドでは統監職が引き続き存在し続ける。

統監の役割は、時代とともに変化を遂げ、現在では名誉職として認知されている。その歴史は軍事と地方政治の交差点を横断し、イギリスの地方行政の発展に寄与してきた。

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