スチルカメラマン

スチルカメラマン（英語: movie still(s) photographer）とは、主に映画やその他の映像作品の製作過程において、作品のプロモーションを目的とした静止画写真を撮影する専門家です。スチールカメラマン、あるいはスチールマンとも呼ばれています。

彼らは映画の撮影現場で活動しますが、映像そのものの製作に直接的に関与するわけではありません。通常、映画会社の広報部門や宣伝チーム、あるいは作品の宣伝を担当する部署によって雇用され、ポスターやパンフレット、雑誌、新聞、ウェブサイトといった様々な媒体で使用されるためのビジュアル素材を供給します。

撮影現場では、監督や助監督、照明スタッフなど、多岐にわたる関係者と連携しながら作業を進めます。映画本編の撮影中にシーンを記録する場合、録音への影響を避けるために、サウンド・ブリンプと呼ばれる消音装置を用いてカメラのシャッター音を抑えます。しかし、本番中の撮影が困難な場面では、助監督や出演者、照明スタッフらの協力を得て、改めてそのシーンを再現して撮影することも一般的です。これは「つくり」と呼ばれます。

シーン全体の撮影だけでなく、出演者個人のポートレート、撮影地（ロケーション）、あるいはセットや大道具といった要素を個別に撮影することも彼らの仕事です。DVDなどの特典映像に含まれるメイキング写真もスチルカメラマンが手がける場合が多いです。また、撮影用の衣装を着用した俳優の写真は、作品のイメージを伝える上で特に重要であり、これらの素材は他の画像やイラストと組み合わせて、公式ポスターやファン向けの出版物などに活用されます。

日本におけるスチルカメラマンの歴史を振り返ると、かつては映画撮影所に専属のスタッフとして所属していました。多くの撮影所には写真部が設置され、独自の現像施設も備わっていました。撮影された写真は宣伝部と密接に連携して選定され、作品ごとに管理されていました。これらの写真は、宣伝用ポスターや各映画館が独自に作成するプログラムなどの「宣材」として活用されたほか、撮影所が発行する広報誌にも掲載され、外部の映画雑誌へは印画紙を貸し出す形で提供されていました。

サイレント映画の時代には同時録音が存在しなかったため、本番中のスチル撮影に問題はありませんでした。しかし、トーキー映画が主流となり同時録音が行われるようになると、シャッター音が雑音となるため、本編シーンの撮影が終了した後で改めてシーンを「つくり」、スチル撮影を行う方法が一般的になりました。中には、たとえ映画本編には存在しないシーンであっても、作品の象徴となるようなカットを監督やプロデューサー、宣伝担当者と協議の上で演出し、撮影することも行われました。

宣伝用写真以外にも、日本のスチルカメラマンの業務範囲は広く、衣装合わせの記録写真や、劇中で小道具として使用される写真（例：遺影、アルバム内の写真など「劇用写真」）の撮影も担当しました。これらは衣装担当や小道具担当の助監督と連携して進められました。歴史的な例としては、1929年のマキノ・プロダクションや1951年の大映京都撮影所の組織図に「写真部」や「写真係」としてその存在が確認されています。

1960年代以降、日本映画界が斜陽化し、撮影所の合理化が進む過程で、スチルカメラマンの専属契約形態は徐々に変化しました。部門の分社化や外部委託（アウトソーシング）が進み、1980年代頃までには、多くのスチルカメラマンがフリーランスとして活動する形態へと移行しました。宣伝機能も本社営業部門に移管されていきます。また、ポラロイドなどのインスタントカメラや安価なDPEサービスの普及により、衣装合わせの記録撮影などは助監督や衣装部自身が行うようになるなど、業務内容にも変化が見られました。専業のスチルカメラマンに加え、音楽雑誌などで活躍するカメラマンなど、異分野の写真家が副次的に映画現場に入るケースも増えました。かつてのような「つくり」による凝った演出の機会は、「ポスター撮り」や特別な「特写」に限られるようになり、むしろ本番直前の「テスト」や「本番テスト」時に、消音器を装着した機材で撮影される、よりリアルなライブ感のあるスチル写真が求められる傾向が強まりました。

2000年代に入ると、スチル撮影機材のほとんどがデジタル化され、写真素材の提供方法も大きく変わりました。電子メールでの添付や、各配給会社の宣伝部門や宣伝会社が運営する登録制ダウンロードサービスを通じて、写真データが共有されるのが主流となっています。

なお、一部のオンラインデータベースでは、スチルカメラマンが誤ってスクリプターや脚本家と分類されている例が見受けられますが、これは正確ではありません。スチルカメラマンは映像作品の宣伝ビジュアルを担う、独立した専門職能です。

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