スティル・サパン

スティル・サパン：自然に根差したスイスのアール・ヌーヴォー

スティル・サパン（le style sapin）は、スイスにおけるアール・ヌーヴォーの一様式であり、特にヌーシャテル州のラ・ショー＝ド＝フォンを中心に発展しました。この様式は、地元の芸術家であり美術学校教授でもあったシャルル・レプラトニエによって創り出されました。

概要

「サパン（sapin）」はフランス語で「モミの木」を意味し、スティル・サパンは「モミの木様式（Pine Tree Style）」とも呼ばれます。この様式の根底にある理念は、芸術が自然からインスピレーションを得るべきだという考えです。レプラトニエは、ラ・ショー＝ド＝フォンの周囲に広がるジュラ山脈のモミの木をモチーフとして多用しました。この様式は、時計製造業、建築、日用品など、幅広い分野に応用されました。

歴史的背景

ラ・ショー＝ド＝フォンは、ジュラ山脈の中腹、標高1,000メートルに位置し、18世紀末から時計産業が発展しました。時計商人が富を蓄積するにつれて、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで主流だったアール・ヌーヴォー建築がこの地にも浸透しました。特に、「鞭の一撃（coup de fouet）」と呼ばれるモチーフが人気を博し、1903年から1905年の間に多くのアール・ヌーヴォー建築が建設されました。これらの建築は、動植物をモチーフとしたステンドグラスやレリーフで装飾され、工房と住居が一体となったものが多く見られました。

しかし、20世紀初頭、地元の美術学校教授であったシャルル・レプラトニエが、ラ・ショー＝ド＝フォン独自の新しいアール・ヌーヴォー様式、すなわちスティル・サパンを生み出しました。1905年、レプラトニエは美術学校に美術装飾高等科を創設し、学生たちに自然をモチーフとした装飾を教え始めました。その中には、後にル・コルビュジエとなるシャルル＝エドゥアール・ジャヌレもいました。

レプラトニエは、「自然のみが唯一のインスピレーションの源である」と主張し、学生たちにジュラ山脈の動植物から学ぶよう促しました。その結果、ラ・ショー＝ド＝フォン特有のアール・ヌーヴォー様式であるスティル・サパンが誕生しました。この様式の誕生により、ヴィクトール・オルタやエクトール・ギマールといったアール・ヌーヴォーの先駆者たちが生み出した「鞭の一撃」のモチーフは用いられなくなり、フランスやベルギーのアール・ヌーヴォー、ドイツのユーゲント・シュティール、オーストリアのウィーン分離派などの影響も薄れていきました。

ル・コルビュジエは、1908年にレプラトニエに宛てた手紙の中で、「パリジャンたちが自然を模した彫刻の植物を作り、ドイツ人たちが鏡のように光る四角形を作るなら、私たちは松の実で三角形を作りましょう」と述べています。また1911年頃には、「我々の作品や装飾の基礎はモミの木であり続ける。この木はそれぞれの時代において研究され、大枠にも細部にも、尽きることのない装飾の源を提示する。…そして偉大な銀アザミとジュラ山脈の野生動物は多くの豊かさを付け加える」と述べています。

主な作品

ファレ邸

ファレ邸（Villa Fallet）は、スティル・サパンを代表する個人住宅の好例です。1906年に彫刻家ルイス・ファレのために建てられ、美術学校の生徒たちが手掛けた最初の作品の一つです。モミの木を主要なモチーフとし、ジュラ地域の植生から着想を得た要素が盛り込まれています。若き日のル・コルビュジエ（シャルル＝エドゥアール・ジャヌレ時代）が図面作成と現場監督を担当しました。

ミラノ万国博覧会への出典品

美術学校の生徒たちは、様々な装飾品を制作し、そのコレクション108点が1906年のミラノ万国博覧会に出品されました。この功績が認められ、美術学校は表彰されました。

ラ・ショー＝ド＝フォンの火葬場

ラ・ショー＝ド＝フォンの火葬場は、スティル・サパンを代表する建築物の一つです。1908年から1909年にかけて建設されたこの火葬場は、死の克服と生の勝利をテーマとし、葬列が悲しみから別れに至るまでの道のりを象徴的に描いています。室内は、石彫や金属板、モザイク、絵画で装飾されています。レプラトニエがデザインを手がけ、モミの木を模した三角形のモチーフや松の実のエンブレムがファサードの彫刻や内部の装飾に使われています。さらに、象徴主義的な壁画も施されました。レプラトニエの生徒たちは、スティル・サパンのテーマである動植物に加え、炎と霧を象った装飾も加えました。火葬場の装飾は傑作とみなされ、機能性、構造、美しさにおいて芸術的・信仰的な団結の象徴とされています。この芸術性は高く評価され、現在も火葬場と納骨堂として利用されています。また、1988年には歴史的建造物に指定されました。

スティル・サパンは、自然への敬意と地域性を重視した独自のスタイルであり、スイスのアール・ヌーヴォーを代表する重要な芸術運動の一つです。

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