スティール・ホイールズ

ローリング・ストーンズの復活を告げた傑作『スティール・ホイールズ』

1989年、ローリング・ストーンズはオリジナル・アルバム『スティール・ホイールズ』を発表しました。この作品は、バンドにとって大きな転換期を象徴するものであり、メンバー間の不和から脱却し、新たなサウンドで音楽シーンに帰ってきたことを鮮やかに示しています。

メンバー間の確執とバンドの再生

前作『ダーティ・ワーク』以来3年ぶりの新作となる『スティール・ホイールズ』は、長年に渡り続いたミック・ジャガーとキース・リチャーズの確執が解消されたことを示す重要な作品です。両者の不仲は、バンドの活動を停滞させるほど深刻なものとなっており、メンバーそれぞれがソロ活動に専念する時期もありました。ジャガーはソロアルバムを発表し、日本公演を成功させ、リチャーズは自身のバンドを結成するなど、活発な活動を展開していました。

しかし、1988年、水面下でバンド再始動の動きが活発化。メンバーはロンドンで話し合いを行い、翌年のアルバム制作とツアー開催に合意します。バルバドスでの会合では、激しい議論の末、和解に達し、創造的なエネルギーが再び流れ始めます。この和解は、バンドの今後の活動にとって大きな転機となりました。

新たなサウンドと制作体制

『スティール・ホイールズ』は、往年のストーンズのサウンドを踏襲しつつ、1990年代の音楽シーンを意識した新たなサウンドも取り入れています。プロデューサーには、70年代後半からストーンズの作品に携わってきたクリス・キムゼイを迎え、モダンなアレンジとサウンドプロダクションが施されました。また、本作はイアン・スチュワート（1985年逝去）が参加しない最初のアルバムであり、ビル・ワイマンが参加した最後のアルバム（正式な脱退は1993年）でもあります。

本作は、CDをメインフォーマットとして制作された最初のアルバムと言われています。それ以前のアルバムではLPと並行してCDがリリースされてきましたが、収録時間や曲数の増加に伴い、CDを前提とした制作に切り替わりました。また、様々な形態でのリリースも特徴的であり、通常ケース入りのCDに加え、メタルケース入りCD、複数のシングルCD、リミックスCDなどが発売されました。

さらに、現在もバンドのサポートメンバーを務めるバーナード・ファウラーと、2015年までサポートメンバーだったリサ・フィッシャーが本作で初参加しました。特にフィッシャーの参加は、『スティール・ホイールズ』のみである点が興味深いと言えるでしょう。

シングルヒットとCMソング

『スティール・ホイールズ』からは、「ミックスト・エモーションズ」「ロック・アンド・ア・ハード・プレイス」「オールモスト・ヒア・ユー・サイ」「テリファイング」の4曲がシングルカットされ、ヒットを記録しました。特に「ミックスト・エモーションズ」は、アメリカのBillboard Hot 100で5位、Mainstream Rockチャートで1位を獲得しました。「ロック・アンド・ア・ハード・プレイス」は、日本のCMソングとして使用され、大塚製薬「ポカリスエット」のCMで流れたことで多くの日本人が耳にする機会を得ました。

音楽評論家からの評価

『スティール・ホイールズ』は、商業的な成功を収め、批評家からも概ね好意的な評価を受けています。ローリング・ストーン誌のアンソニー・デカーチスは、時代を反映した重要なアルバムと評価しました。一方、ロバート・クリストガウは前作『ダーティ・ワーク』より低い評価を与えています。オール・ミュージック・ガイドのスティーブン・トーマス・アーレワインは、ストーンズの代表作とは言い切れないものの、十分に聴けるアルバムだと評しました。メンバー自身もこのアルバムを肯定的に評価しており、制作過程の速さと楽曲のクオリティを高く評価しています。

大規模なワールドツアー

アルバムリリース後には、「スティール・ホイールズ・ツアー」と題された大規模なワールドツアーが開催されました。北米、日本、ヨーロッパを回り、延べ数百万人規模の観客を動員し、莫大な利益を上げました。このツアーでは、長年演奏されていなかった初期の楽曲が披露され、ファンを驚かせました。特に、日本での初公演は大きな話題となり、50万人を超える観客を動員しました。また、チェコスロバキア公演は、ビロード革命後の初のロックコンサートとして大きな意味を持ちました。

まとめ

『スティール・ホイールズ』は、ローリング・ストーンズの復活と進化を象徴する作品と言えます。メンバー間の不和を克服し、新たなサウンドと制作体制で制作された本作は、商業的にも批評的にも大きな成功を収めました。そして、このアルバムは、バンドにとって新たなステージへの出発点となりました。

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