スティーヴン・ローゼンバーグ
スティーヴン・アーロン・ローゼンバーグ（Steven Aaron Rosenberg）は、1940年8月2日に生まれたアメリカ合衆国の著名な免疫学者であり、がん研究の第一人者です。特に、がんに対する生体の免疫応答を治療に応用する「がん免疫療法」の分野で、画期的な発見と治療法の開発を主導しました。彼の功績は、特定のサイトカインであるインターロイキン-2（IL-2）の抗腫瘍効果を見出したこと、そして、患者自身のがん組織に浸潤したリンパ球（Tumor Infiltrating Lymphocyte; TIL）を用いた細胞免疫療法を確立したことに集約されます。これらの成果は、従来の手術、放射線療法、化学療法に加え、がん治療に新たな選択肢をもたらしました。
ニューヨーク市ブロンクスで、ポーランド系ユダヤ人移民の両親のもとに生まれました。地元ブロンクスの科学高等学校で才能を伸ばした後、名門ジョンズ・ホプキンス大学に進学し、1961年に卒業、さらに1964年には医学博士号（M.D.）を取得しました。その後、ハーバード大学医学大学院で臨床研修を積み、基礎研究への深い関心から、1968年にはハーバード大学で生物物理学の博士号（Ph.D.）も取得しています。医師としての臨床経験と、生命科学における高度な研究能力を兼ね備えた、異色のキャリアを歩み始めました。
1970年、ローゼンバーグ博士はアメリカ国立がん研究所（NCI）に臨床助手として加わりました。以来、半世紀以上にわたりNCIを拠点とし、がん免疫療法の最前線を牽引しています。1974年からは主任外科教授として、自身が率いる研究チームと共に、がん細胞を攻撃する免疫細胞の能力を高める方法論の探求に邁進しました。この過程で、免疫細胞の増殖と活性化に重要な役割を果たすサイトカイン、インターロイキン-2（IL-2）が、進行したがんに対して治療効果を持つことを発見しました。
IL-2の発見は、がん免疫療法における大きなブレークスルーとなりました。ローゼンバーグ博士らは、大量のIL-2を患者に投与することで、体内の免疫細胞、特にT細胞やナチュラルキラー（NK）細胞を活性化させ、がんを攻撃させる治療法を開発しました。このIL-2による全身療法は、特に悪性黒色腫や腎細胞がんといった、従来の治療法では予後不良であった進行がんに対して、一部の患者で劇的な効果をもたらしました。これは、免疫系ががんを制御しうることを証明するものであり、がん免疫療法の概念を臨床医学の表舞台に押し上げる契機となりました。
IL-2療法の経験から、ローゼンバーグ博士は、がん組織そのものに浸潤しているリンパ球（Tumor Infiltrating Lymphocyte; TIL）が、がん細胞に対して特異的な攻撃能力を持っていることに注目しました。彼は、患者のがん組織からTILを分離し、体外でIL-2などを用いて大量に培養し、再び患者の体内に戻すという、画期的な細胞免疫療法を開発しました。このTIL療法は、特に悪性黒色腫に対して高い奏効率を示し、従来のIL-2単独療法よりも効果が高いことが示されました。これは、患者自身の免疫細胞を「兵士」として利用する、個別化されたがん治療の先駆けとなりました。
ローゼンバーグ博士は、研究者としてだけでなく、主任外科教授として多くの患者の治療にも携わってきました。1985年には、当時のロナルド・レーガン大統領が罹患した結腸癌の治療チームの一員となり、その医療チームのスポークスマンを務めたことは、彼の臨床医としての信頼性の高さを物語るエピソードです。彼の一連の研究と臨床応用は、世界中のがん研究者や臨床医に大きな影響を与え、免疫チェックポイント阻害剤など、今日のがん免疫療法の隆盛の礎を築きました。
長年の卓越した研究成果に対し、ローゼンバーグ博士は国内外で数多くの栄誉に輝いています。主要なものとして以下が挙げられます。
ウィリアム・コーリー賞（2011年）
慶應医学賞（2013年）
マスリー賞（2014年）
オールバニ・メディカルセンター賞（2018年）
ダン・デイヴィッド賞（2021年）
クラリベイト引用栄誉賞（2023年）
* アメリカ国家技術賞（2023年）
がん治療の最前線に関する知見は、『ガンの神秘の扉をひらく―遺伝子治療の最前線から』（村松潔 訳 文芸春秋社）などの著書を通じて広く発信されています。
スティーヴン・ローゼンバーグ博士は、がん免疫療法という分野を切り拓き、進行がん患者の予後を改善するための新たな道筋を示した、医学史上の重要人物です。現在もNCIの主任外科教授として精力的に研究と臨床を続けており、その功績は未来のがん治療に多大な示唆を与え続けています。
生い立ちと教育
ニューヨーク市ブロンクスで、ポーランド系ユダヤ人移民の両親のもとに生まれました。地元ブロンクスの科学高等学校で才能を伸ばした後、名門ジョンズ・ホプキンス大学に進学し、1961年に卒業、さらに1964年には医学博士号（M.D.）を取得しました。その後、ハーバード大学医学大学院で臨床研修を積み、基礎研究への深い関心から、1968年にはハーバード大学で生物物理学の博士号（Ph.D.）も取得しています。医師としての臨床経験と、生命科学における高度な研究能力を兼ね備えた、異色のキャリアを歩み始めました。
アメリカ国立がん研究所 (NCI) での研究
1970年、ローゼンバーグ博士はアメリカ国立がん研究所（NCI）に臨床助手として加わりました。以来、半世紀以上にわたりNCIを拠点とし、がん免疫療法の最前線を牽引しています。1974年からは主任外科教授として、自身が率いる研究チームと共に、がん細胞を攻撃する免疫細胞の能力を高める方法論の探求に邁進しました。この過程で、免疫細胞の増殖と活性化に重要な役割を果たすサイトカイン、インターロイキン-2（IL-2）が、進行したがんに対して治療効果を持つことを発見しました。
IL-2療法の確立と発展
IL-2の発見は、がん免疫療法における大きなブレークスルーとなりました。ローゼンバーグ博士らは、大量のIL-2を患者に投与することで、体内の免疫細胞、特にT細胞やナチュラルキラー（NK）細胞を活性化させ、がんを攻撃させる治療法を開発しました。このIL-2による全身療法は、特に悪性黒色腫や腎細胞がんといった、従来の治療法では予後不良であった進行がんに対して、一部の患者で劇的な効果をもたらしました。これは、免疫系ががんを制御しうることを証明するものであり、がん免疫療法の概念を臨床医学の表舞台に押し上げる契機となりました。
腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 療法の開発
IL-2療法の経験から、ローゼンバーグ博士は、がん組織そのものに浸潤しているリンパ球（Tumor Infiltrating Lymphocyte; TIL）が、がん細胞に対して特異的な攻撃能力を持っていることに注目しました。彼は、患者のがん組織からTILを分離し、体外でIL-2などを用いて大量に培養し、再び患者の体内に戻すという、画期的な細胞免疫療法を開発しました。このTIL療法は、特に悪性黒色腫に対して高い奏効率を示し、従来のIL-2単独療法よりも効果が高いことが示されました。これは、患者自身の免疫細胞を「兵士」として利用する、個別化されたがん治療の先駆けとなりました。
臨床家としての経験と影響
ローゼンバーグ博士は、研究者としてだけでなく、主任外科教授として多くの患者の治療にも携わってきました。1985年には、当時のロナルド・レーガン大統領が罹患した結腸癌の治療チームの一員となり、その医療チームのスポークスマンを務めたことは、彼の臨床医としての信頼性の高さを物語るエピソードです。彼の一連の研究と臨床応用は、世界中のがん研究者や臨床医に大きな影響を与え、免疫チェックポイント阻害剤など、今日のがん免疫療法の隆盛の礎を築きました。
受賞歴
長年の卓越した研究成果に対し、ローゼンバーグ博士は国内外で数多くの栄誉に輝いています。主要なものとして以下が挙げられます。
ウィリアム・コーリー賞（2011年）
慶應医学賞（2013年）
マスリー賞（2014年）
オールバニ・メディカルセンター賞（2018年）
ダン・デイヴィッド賞（2021年）
クラリベイト引用栄誉賞（2023年）
* アメリカ国家技術賞（2023年）
著書
がん治療の最前線に関する知見は、『ガンの神秘の扉をひらく―遺伝子治療の最前線から』（村松潔 訳 文芸春秋社）などの著書を通じて広く発信されています。
結び
スティーヴン・ローゼンバーグ博士は、がん免疫療法という分野を切り拓き、進行がん患者の予後を改善するための新たな道筋を示した、医学史上の重要人物です。現在もNCIの主任外科教授として精力的に研究と臨床を続けており、その功績は未来のがん治療に多大な示唆を与え続けています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。