ステファニア・ヴォイトヴィチ

ポーランドが誇る傑出したソプラノ歌手、ステファニア・ヴォイトヴィチ（Stefania Woytowicz）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて国際的に活躍し、その多才な歌声で聴衆を魅了し続けた。1922年10月8日に誕生し、2005年8月31日に82歳で逝去するまでの間、彼女はポーランド声楽界の第一人者として、幅広いジャンルの作品に生命を吹き込んだ。

ヴォイトヴィチは、1922年、当時ポーランド領であったポジーリャ地方のオルィーニンに生を受けた。現在はウクライナ領となっているカームヤネツィ＝ポジーリシクィイの近郊にあたる地である。幼少期から音楽に親しみ、クラクフの音楽学校で高名な声楽教師、スタニスワヴァ・ザヴァツカに師事し、ソプラノとしての確かな基礎技術と表現力を磨いた。作曲家であるボレスワフ・ヴォイトヴィチは彼女の年長の兄にあたる。

彼女のキャリアは、国際的な音楽コンクールでの相次ぐ成功によって華々しく幕を開けた。1950年にはポズナンで開催されたバッハ・コンクールで第1位を獲得。翌1951年にはドイツのライプツィヒでも再びバッハ・コンクールで第1位に輝き、その実力が広く認められることとなった。さらに1954年には、チェコのプラハで開催される権威あるプラハの春国際音楽コンクールでも優勝を果たし、これらの成功を足がかりに、彼女はポーランドを代表するソプラノ歌手としての地位を確立し、本格的な国際的キャリアを歩み始めたのである。

ヴォイトヴィチの活動の舞台は、ポーランド国内にとどまらなかった。彼女はヨーロッパ諸国をはじめ、遠く離れたアメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本を含む極東地域に至るまで、世界各地で数多くの公演を行った。ザルツブルク音楽祭やエディンバラ国際フェスティバルといったヨーロッパの主要な音楽祭にも頻繁に招かれ、国際的な音楽シーンにおけるポーランドの存在感を示す役割も担った。

彼女のレパートリーは非常に広範であった。バロックから古典派、ロマン派、そして現代音楽に至るまで、様々な時代の作品を手掛けた。特に、独唱曲、重唱曲、大規模なカンタータやオラトリオ作品において、その歌唱力と表現力が光った。教会音楽や宗教的作品にも深い造詣を示したが、ヴォイトヴィチの特徴の一つは、生涯を通じてオペラの舞台に出演しなかったことである。彼女は主にコンサート形式での演奏に専念し、作品そのものに正面から向き合うスタイルを貫いた。

ヴォイトヴィチは、現代音楽の擁護者としても重要な役割を果たした。特に、ポーランド現代音楽界との関わりは深く、ワルシャワで開催される国際現代音楽祭「ワルシャワの秋」には何度も出演した。カロル・シマノフスキ、クシシュトフ・ペンデレツキ、タデウシュ・バイルト、ヘンリク・グレツキ、ボレスワフ・シャベルスキ、クシシュトフ・メイエル、エドヴァルト・ボグスワフスキなど、ポーランドを代表する現代作曲家たちの作品を積極的に演奏し、その普及に貢献した。中でも特筆すべきは、ヘンリク・グレツキの傑作、交響曲第3番「悲しみの歌の交響曲」の初演者であることだ。この作品は後に世界的な注目を集めることになるが、ヴォイトヴィチはその情感豊かな歌唱によって作品の持つ深い精神性を表現し、異なるオーケストラ、指揮者との共演で3種類の録音を残し、作品の評価確立に大きく貢献した。

音楽家としての演奏活動以外にも、ヴォイトヴィチは社会的な活動にも熱心であった。1980年代には、ワルシャワの「創造的環境の聖職者（Duszpasterstwie Środowisk Twórczych）」という団体を通じて、音楽を介した慈善活動に従事した。また、1985年にはイタリアの教皇の夏の離宮であるカステル・ガンドルフォにおいて、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世のために特別にコンサートを行い、ポーランド出身の教皇とのつながりを示した。これらの活動に加え、ラジオやテレビ番組への出演、そして数多くのレコード録音を通じて、彼女の芸術はより多くの人々に届けられた。

さらに、ヴォイトヴィチは音楽界のリーダーとしても手腕を発揮した。1977年から1992年までの15年間、ワルシャワ音楽協会の会長を務め、ポーランドの音楽振興と教育に貢献した。

ステファニア・ヴォイトヴィチは、2005年8月31日、ワルシャワにてその波乱に満ちた、しかし輝かしい生涯を閉じた。彼女はワルシャワに埋葬された。彼女の遺した広範なレパートリーの演奏記録、特に現代音楽への貢献、そして教育者・組織者としての功績は、ポーランド声楽史における彼女の確固たる地位を示している。彼女の歌声は、今なお多くの音楽愛好家によって敬愛され続けている。

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