ステライルニュートリノ

ステライルニュートリノとは

ステライルニュートリノ（sterile neutrino）とは、重力を除く標準模型のすべての基本的な力と相互作用をしないと仮定されている、理論上のニュートリノです。これは、通常のニュートリノとは異なり、電磁力、弱い力、強い力といった相互作用をせず、重力のみに反応すると考えられています。ステライルニュートリノは、右手系のヘリシティを持つニュートリノや、左手系のヘリシティを持つ反ニュートリノを指すことが多いですが、その種類や性質についてはまだ不明な点が多く残されています。

ステライルニュートリノの必要性

これまでの実験結果から、ニュートリノは左手系のヘリシティを持つことがわかっています。これは、ニュートリノが質量を持たない場合、観測されるカイラリティ（粒子の鏡像的性質）が一つしかないことを意味します。しかし、ニュートリノ振動のような現象は、ニュートリノが質量を持つことを示唆しており、標準模型では説明できない新たな物理の存在を示しています。

ニュートリノが質量を持つと、ヘリシティは相対的に不変ではなくなります。つまり、粒子の速度によっては、同じ粒子でも反対のヘリシティが観測される可能性があります。このことから、観測されていない右手系のヘリシティを持つニュートリノや、左手系のヘリシティを持つ反ニュートリノの存在が示唆されるようになりました。ここで問題となるのは、これらの粒子が単にカイラリティの違いだけなのか、それとも別の粒子として存在するのかという点です。

ステライルニュートリノの性質

ステライルニュートリノ（右手系ニュートリノ）は、通常のニュートリノとは異なり、重力のみで相互作用すると考えられています。この性質から、銀河団の総質量の大半を占める暗黒物質の有力な候補としても注目されています。ステライルニュートリノは、強い相互作用と弱い相互作用に対して一重項として現れ、弱超電荷、弱アイソスピン、電荷はゼロです。ただし、重力との相互作用があるため、十分に重ければ、冷たい暗黒物質や暖かい暗黒物質の候補となりえます。

大統一理論（GUT）の一部では、ステライルニュートリノはゲージ粒子とも相互作用すると考えられています。ただし、このゲージ粒子は非常に重いため、相互作用のエネルギーは非常に抑制されています。しかし、一部のGUTモデルでは、ステライルニュートリノは現れないとされています。

ステライルニュートリノの検出

ステライルニュートリノは、通常のニュートリノとディラック質量を通して混合する可能性があります。また、マヨラナ質量を持つ可能性もあり、その場合、二重ベータ崩壊中に現れる可能性があります。この二重ベータ崩壊は、ニュートリノが存在しない場合にも起こるため、この現象の観測がステライルニュートリノの存在を間接的に示す証拠となる可能性があります。

理論モデルによっては、ステライルニュートリノは通常のニュートリノよりもはるかに重い質量を持つとされます。一方、別のモデルでは、比較的軽い質量を持つ可能性も示唆されています。軽いステライルニュートリノ（質量が約1eV）は、LSND実験の結果を説明する可能性として提案されました。

しかし、2007年のMiniBooNE実験では、ステライルニュートリノの存在を裏付ける証拠は見つかりませんでした。しかし、より最近の結果と分析では、その存在を支持する証拠が見られるようになっています。2014年には、銀河団のX線観測で、未知の波長の輝線が検出され、この輝線がステライルニュートリノの崩壊によって生じた可能性が指摘されました。

ステライルニュートリノ存在の否定

一方、2023年に発表されたSTEREO実験の結果では、ステライルニュートリノの存在を示す結果は得られませんでした。この実験では、原子炉から放出されるニュートリノを詳細に観測し、ステライルニュートリノが存在しない可能性を示唆しています。

まとめ

ステライルニュートリノは、素粒子物理学における重要な未解決問題の一つです。その存在が証明されれば、標準模型を超えた新たな物理学の解明に大きく貢献すると期待されます。しかし、その検出は非常に難しく、様々な実験や観測によってその存在が模索されています。今後の研究によって、その謎が解き明かされる日が来るかもしれません。