ステント

ステントとは

ステントは、病気などで狭くなった人体内の管状構造（血管、気管、食道、腸管、胆管など）を内側から広げ、その開存性を維持するための医療機器です。一般的に金属製の網目状の筒で、治療部位や目的に合わせて様々な種類があります。

語源

ステントという名称は、19世紀のイギリスの歯科医、チャールズ・トーマス・ステント氏に由来すると言われています。彼が考案した歯科用材料の固定具が、現在のステントの機能に類似していたため、その名が付けられたとされます。

主な使用例

ステントは、心臓病、血管疾患、消化器疾患、呼吸器疾患など、幅広い分野で活用されています。

血管の治療

心臓の血管である冠動脈が狭窄または閉塞した際に、血流を改善するためにステントが使われます（冠動脈ステント留置術）。これは、カテーテルという細い管を用いてステントを病変部まで運び、バルーン（風船）を使ってステントを拡張・固定する方法です。留置されたステントは血管を内側から支え続けます。ステントは異物であるため、血栓ができるリスク（ステント血栓症）があり、これを予防するために抗血小板薬の服用が必要です。また、再狭窄を防ぐために薬剤を徐放する「薬剤溶出性ステント (DES)」が開発され、主流となっています。海外では生体吸収性ステントも実用化されています。

脳梗塞の治療においても、血管の狭窄部を広げる目的でステントが使用されることがあります。

大動脈にできた動脈瘤の治療法の一つに「ステントグラフト内挿術」があります。これは、ステントと人工血管が一体化した「ステントグラフト」を血管内から動脈瘤内部に留置し、瘤への血流を遮断して破裂を防ぐ治療法です。開腹手術に比べ体への負担が少ないため、広く行われています。

消化器・呼吸器の治療

食道、気管、十二指腸、大腸、胆管などが癌などの原因で狭くなった場合、ステントを留置して食物や空気、胆汁、便の通り道を確保し、関連する症状（呼吸困難、摂食障害、黄疸、便通異常など）を緩和します。これは病気の原因そのものを治療するものではありませんが、特に進行癌などで根治的な治療が難しい場合に、患者さんのQOL（生活の質）を維持・向上させる上で重要な役割を果たします。

ステントの種類と特徴

ステントは多様な種類があり、それぞれ特性が異なります。

素材: 医療用として適した金属（ステンレス、タンタル、コバルト合金、ニチノールなど）が用いられます。
構造: 金属フレームのみの「ベアメタルステント」と、表面を薄い膜（ePTFE、シリコンなど）で覆った「カバードステント」があります。カバードステントは主に血管以外の管腔臓器や、血管でも特定の状況（ステントグラフトなど）で使用されます。
機能: 薬剤溶出性ステント (DES) は、表面に細胞増殖抑制剤が塗布されており、再狭窄を抑制する効果があります。冠動脈治療で広く使われています。
拡張方法: バルーンを膨らませる力で拡張する「バルーン拡張型」と、ステント自体の弾性や形状記憶性により自然に拡張する「自己拡張型」に大別されます。バルーン拡張型は主に冠動脈など精密な調整が必要な部位に、自己拡張型は末梢血管や消化管、胆管など柔軟性が求められる部位に用いられることが多いです。ステントグラフトも多くは自己拡張型です。

ステント技術は、低侵襲治療の発展に大きく貢献しており、今後も進化が期待されています。

もう一度検索