ステンド・クラス

ジューダス・プリースト『ステンド・クラス』

1978年に発表されたジューダス・プリーストの通算4枚目となるスタジオアルバム、『ステンド・クラス』（原題：Stained Class）は、バンドのキャリアにおける重要なターニングポイントとなった作品です。このアルバムから、ドラマーとしてレス・ビンクスが新たに加入し、バンドサウンドはよりタイトで力強い方向へと進化しました。

音楽評論家の間でも高く評価されており、音楽サイトallmusic.comのスティーヴ・ヒューイは、この作品が「これほどまでに純粋なヘヴィ・メタル・サウンドを追求した作品は、1990年の『ペインキラー』まで彼ら自身も再び作り出すことはなかった」と評し、さらに「NWOBHM（ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル）やスラッシュメタルといった、その後のヘヴィメタルシーンに多大な影響を与えたと言える」と、その歴史的な重要性を強調しています。彼らにとっても、まさに初期における傑作の一つと位置づけられています。

アルバムの制作過程においては、バンドとデニス・マッケイが共同でプロデュースを進めていましたが、アルバムの大半が完成した段階で、シングル候補となるカヴァー曲の追加録音を求められました。これに応じるため、バンドは急遽プロデューサーとしてジェイムズ・ガスリーを迎え、スプーキー・トゥースの楽曲「ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー」をカヴァーして収録しました。この楽曲は計画通りシングルとしてリリースされましたが、残念ながらチャート入りは果たせませんでした。しかし、ジェイムズ・ガスリーのプロデュース手法を高く評価したバンドは、同年発表された次作『殺人機械』でも彼を共同プロデューサーとして迎えることになります。

「ジューダス・プリースト裁判」

このアルバム『ステンド・クラス』は、後に思いがけない形で世界的な注目を集めることになります。1985年12月23日、アメリカのネバダ州リノで、2人の少年が自殺を図る痛ましい事件が発生しました。うち1人はその場で死亡し、もう1人も重傷を負ったものの、一命を取り留めました。しかし、重傷を負った少年も、その3年後に薬物の過剰摂取が原因で亡くなっています。

事件から5年が経過した1990年、自殺した少年の遺族は、その原因が『ステンド・クラス』アルバムにあるとして、ジューダス・プリーストを相手取った訴訟を起こしました。原告側は、アルバムに収録されていた問題の楽曲「ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー」に、人間の耳には聞こえないように意図的に埋め込まれた「Do it（やれ）」という命令形のサブリミナル・メッセージが隠されており、それが少年たちの自殺行為を誘発したと主張しました。

これに対し、被告側であるジューダス・プリースト側は、バンドにはそのような意図は全くなかったと強く反論しました。被告側証人として出廷した臨床心理士は、少年たちが事件以前から暴力的な傾向や鬱病の症状、そして薬物乱用の経験があったことを詳細に証言し、サブリミナル・メッセージが自殺の唯一または主たる原因であったという主張に疑問を投げかけました。裁判の結果、サブリミナル・メッセージの存在は法的に否定され、アルバムと少年たちの自殺との間に直接の関連性はないとの判決が下り、ジューダス・プリースト側の勝訴が確定しました。この裁判は、音楽における表現の自由と、それが若者に与える影響について、社会に大きな議論を巻き起こしました。

収録曲

本作には、ヘヴィメタルの歴史に名を刻む名曲が多数収録されています。特記なき楽曲は、ボーカルのロブ・ハルフォードとギタリストのグレン・ティプトンの共作です。

• - エキサイター (Exciter) - 5:33
• - 白光、赤熱 (White Heat, Red Hot) (Glenn Tipton) - 4:19
• - ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー (Better By You, Better Than Me) (Gary Wright) - 3:23
• - ステンド・クラス (Stained Class) - 5:18
• - 侵略者 (Invader) (Rob Halford, G. Tipton, Ian Hill) - 4:10
• - 地獄の聖者 (Saints in Hell) (R. Halford, K.K. Downing, G. Tipton) - 5:28
• - サベイジ (Savage) (R. Halford, Downing) - 3:28
• - 死の国の彼方に (Beyond the Realms of Death) (R. Halford, Les Binks) - 6:51
• - ヒーローズ・エンド (Heroes End) (G. Tipton) - 4:59

※2001年リマスターCDには、以下のボーナス・トラックが追加収録されています。

• - ファイヤー・バーンズ・ベロウ (Fire Burns Below) - 6:58
• - ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー (ライヴ) (G. Wright) - 3:40

収録曲の中でも、「エキサイター」や「死の国の彼方に」などは特にファンの間で根強い人気を誇り、ライブでも頻繁に演奏される定番曲となっています。「死の国の彼方に」は、ドラマーのレス・ビンクスが作曲にクレジットされている楽曲です。

カヴァーされた楽曲

本作に収録されている楽曲は、その影響力の大きさを示すように、後続の様々なアーティストによってカヴァーされています。

• - EXCITER

- ストラッピング・ヤング・ラッド 『超怒級怒濤重低爆音』 (1995年)
- ガンマ・レイ 『トリビュート・トゥ・ジューダス・プリースト〜レジェンド・オブ・メタルVOL.2』 (1996年)
- 屍忌蛇 『STAND PROUD』 (1998年)

• - BEYOND THE REALMS OF DEATH

- ブラインド・ガーディアン 『トリビュート・トゥ・ジューダス・プリースト〜レジェンド・オブ・メタルVOL.2』 (1996年)
- 陰陽座 『ア・トリビュート・トゥ・ザ・プリースト』 (2003年)

参加ミュージシャン

本作の制作に参加した主要メンバーは以下の通りです。

• - ロブ・ハルフォード：ボーカル
• - K. K. ダウニング：リードギター
• - グレン・ティプトン：リードギター
• - イアン・ヒル：ベース
• - レス・ビンクス：ドラムス

『ステンド・クラス』は、ジューダス・プリーストがその後のヘヴィメタルシーンを牽引していく上で確立したサウンドの原型が色濃く表れた、まさしく歴史的な名盤と言えるでしょう。

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