ストラスブールの誓い

ストラスブールの誓い：中世ヨーロッパの転換点

ストラスブールの誓い（les serments de Strasbourg、die Straßburger Eide）は、842年に西フランク王国のシャルル2世（禿頭王）と東フランク王国のルートヴィヒ2世（ドイツ人王）の間で交わされた歴史的な同盟です。この誓いは、フランク王国の分裂と、後のヨーロッパの形成に大きな影響を与えました。

誓いの背景

この誓いが結ばれる背景には、フランク王国の内紛がありました。シャルル2世とルートヴィヒ2世は、父であるルイ敬虔王の死後、長兄のロタール1世と対立していました。兄弟間の争いは、フランク王国の統一を脅かす深刻な問題であり、ストラスブールの誓いは、この状況に対処するために締結されました。

誓いの内容

ストラスブールの誓いは、シャルル2世とルートヴィヒ2世が、ロタール1世に対抗するために互いに協力し合うことを誓約したものです。特筆すべきは、両王が自身の母語ではなく、相手の言葉を使って誓ったという点です。シャルル2世はルートヴィヒ2世の言葉である古高ドイツ語で、ルートヴィヒ2世はシャルル2世の言葉であるロマンス語（後の古フランス語）で宣言を行いました。この出来事は、当時のカロリング朝フランク王国が、言語的にも文化的に東西に分断されつつあったことを示しています。

両王は、自身の軍隊にも同様の誓約を求めました。この誓約は、それぞれの軍隊が自国の言語で宣誓するという形で実現されました。この事実は、フランク王国が単一の文化圏ではなく、異なる言語と文化を持つ地域に分裂しつつあることを明確に示すものです。

歴史的意義

ストラスブールの誓いは、その歴史的意義の大きさから、しばしば「ヨーロッパの夜明け」と呼ばれる時代を代表する出来事として捉えられています。

1. フランク王国の分裂: この誓いは、フランク王国の東西分裂が不可避であることを示しました。後のヴェルダン条約（843年）で、フランク王国は正式に分割され、西フランク王国（後のフランス）、東フランク王国（後のドイツ）、そしてイタリアを含む中フランク王国へと分裂します。ストラスブールの誓いは、この分裂の重要なステップとなりました。

2. 言語の変遷: 誓いの文章は、古高ドイツ語とロマンス語（古フランス語）で記録されています。特にロマンス語の文書は、ラテン語から明確に分化した最古の文献であり、フランス語の起源を示す重要な証拠とされています。この文書は、言語が時代とともに変化し、新しい言語が形成される過程を示す貴重な資料です。

3. 政治的連携: シャルル2世とルートヴィヒ2世は、この誓いを通じてロタール1世に対抗するための強固な同盟を築きました。これは、兄弟間の権力闘争が、ヨーロッパの政治地図を大きく変える出来事であったことを示しています。

関連する出来事

• - フォントノワの戦い (841年): ストラスブールの誓いの前年、ロタール1世とシャルル2世、ルートヴィヒ2世の間で起こった激戦です。この戦いは、兄弟間の対立が頂点に達した出来事であり、その後のストラスブールの誓いへと繋がりました。
• - ヴェルダン条約 (843年): ストラスブールの誓いの翌年に結ばれた条約で、フランク王国が正式に分割されました。この条約は、今日のヨーロッパの国境線の基礎を築いたとも言える重要な出来事です。

まとめ

ストラスブールの誓いは、中世ヨーロッパの歴史において非常に重要な出来事です。フランク王国の分裂を決定づけただけでなく、言語や文化の多様性、政治的な連携など、多くの側面から歴史を語る上で欠かせない要素を含んでいます。この誓いは、単なる兄弟間の同盟を超え、ヨーロッパの歴史の大きな転換点を示すものとして、後世に語り継がれています。

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