ヴェルダン条約

ヴェルダン条約とは

ヴェルダン条約は、843年8月にフランク王国（カロリング朝）の王ルートヴィヒ1世（敬虔王）の死後、その息子であるロタール、ルートヴィヒ、カールが、王国を3分割して相続することを定めた条約です。この条約によって、西フランク王国、中フランク王国、東フランク王国が成立し、それぞれが現在のフランス、イタリア、ドイツの原型となりました。

条約締結の背景

条約締結の背景には、フランク王国の相続に関する複雑な事情がありました。フランク族には、領土を長子のみに相続させるのではなく、分割相続するという慣習がありました。しかし、統一国家を維持したいという思惑もあり、両者の間で妥協点が模索されていました。

814年にカール大帝が亡くなると、後を継いだルートヴィヒ敬虔王は、817年に「帝国整備令」を発布しました。この法令では、長男ロタールを共同統治者とし、ロタールには王国本土を、次男ピピンと三男ルートヴィヒにはそれぞれアクィタニアとバイエルンを与え、分権的な統一王国を目指しました。しかし、823年に第二妃との間に末弟カールが誕生すると、敬虔王はカールにも領土を与えるため、831年に国土分割案を提示しました。

これにより、領土が削減されることになったロタールら3兄弟は不満を募らせ、リヨン大司教アゴバルトら有力聖職者も統一王国の理念を掲げてこれに反発しました。832年には3兄弟が敬虔王への反乱を起こし、翌833年には敬虔王は一時的に廃位させられました。しかし、兄弟間の対立はその後も続き、834年に復位した敬虔王は、カールに有利な分割案に固執し続けました。838年にピピンが死去すると、相続争いはさらに激化しました。

条約締結に至る経緯

840年に敬虔王が亡くなると、領土を巡る兄弟間の対立は頂点に達しました。841年には、フォントノワの戦いで3兄弟が激突し、ロタールに対抗するため、ルートヴィヒとカールが同盟を結んでロタール軍を破りました。842年には、ストラスブールの誓約で2人は同盟関係を再確認し、ロタールに国土の分割を迫りました。こうした圧力の結果、843年8月10日にヴェルダンにおいて、王国を3分割する案をロタールが受け入れ、条約が締結されました。

条約の内容と影響

条約の内容は、同時代の年代記によってその概略が伝えられています。ロタールは中部フランクとイタリア北部を獲得し、神聖ローマ皇帝の位を保持しましたが、宗主権は失いました。ルートヴィヒは東フランク王国を獲得し、ルートヴィヒ2世（ドイツ人王）を名乗り、カールは西フランク王国を獲得し、シャルル2世（禿頭王）を名乗りました。

中部フランクは、ロタリンギア、アルザス、ロンバルディア、ブルグントなどで構成され、ロタリンギアは現在のロレーヌ（フランス語）、ロートリンゲン（ドイツ語）の語源となりました。

ロタールの死後、中部フランクを巡って領土問題が再燃し、870年のメルセン条約で一時的な解決を見ましたが、その後もフランスとドイツの外交問題としてくすぶり続けました。

ヴェルダン条約は、フランク族の分割相続という慣習を色濃く反映した結果であり、これによりフランク王国は事実上解体されました。この条約は、後のヨーロッパの歴史に大きな影響を与えることとなり、現在の国家形成の基礎となる出来事の一つとなりました。

この条約によって誕生した３つの王国は、それぞれの地域で独自の発展を遂げ、今日のヨーロッパの多様性を形作る要因の一つとなったと言えるでしょう。

この条約は、単なる領土の分割だけでなく、ヨーロッパの歴史、特に中世ヨーロッパの国家形成において非常に重要な転換点となりました。

もう一度検索