ストリームライン・モダン:アメリカを席巻した流麗なデザイン
ストリームライン・モダンは、
アール・デコ様式から発展した建築様式で、
1930年代のアメリカ合衆国、特に
フロリダ州で流行しました。マイアミ・アールデコとも呼ばれるこの様式は、滑らかな曲線、長く伸びやかな水平線、そして船舶を思わせる欄干や丸窓といった装飾が特徴です。
1937年頃をピークに、建築物だけでなく、工業製品や映画にも大きな影響を与えました。
照明と建築の融合
ストリームライン・モダンは、単なる装飾様式にとどまらず、建築構造への電気照明の導入という技術革新を体現していました。豪華客船ノルマンディー号のファーストクラス・ダイニングルームは、その代表的な例です。
1933年から
1935年にかけて、内部から部屋を照らすラリックガラス製の高柱や円柱が数多く設置され、光と空間の調和を見事に表現しました。また、
1930年に建てられたストランド・パレスホテルのロビー(
ロンドン)は、建築ガラスを使用した初期のストリームライン・モダンインテリアとして知られ、ヴィクトリア&アルバート博物館によって保存されています。
住宅建築への応用
商業ビルほど多くはありませんが、ストリームライン・モダンの住宅も存在しました。ハワード・ライデッカーが設計した
ロサンゼルスのライデッカー・ハウスはその好例であり、この様式が住宅建築にも取り入れられていたことを示しています。
ストリームライン・モダンの代表的な建築物
ストリームライン・モダン様式は、多様な建築物に採用されました。以下はその一部です。
1920年代~1930年代: ロングビーチ空港のメインターミナル(1926年)、ロッキード・ベガ(1928年)、カルリュー(1931年、トロント)、バーナム・ビーチス(1933年、オーストラリア)、マーレ・ノーマン・ビル(1933年、サンタモニカ)、ミッドランド・ホテル(1933年、イングランド)、デ・ラ・ウェア・パビリオン(1935年、イングランド)、パン・パシフィック・オーディトリアム(1935年、ロサンゼルス)、ミネアポリス・アーモリー(1936年)、パリ万国博覧会ベルギー館(1937年)、TAVスタジオ(1937年、ハリウッド)、ミネルヴァ劇場とミネルヴァ・ビル(1937年、オーストラリア)、ベイザー・ビル(1937年、サンフランシスコ)、バーナム・ホール(1937年、サンタモニカ)、湾仔街市(1937年、香港)、リバー・オーク・ショッピングセンター(1937年、ヒューストン)、マーク・ケッペル高校(1938年、カリフォルニア州)、Normandie building(1938年、マル・デル・プラタ)、マリン・エア・ターミナル(1939年、ニューヨーク)、ニューヨーク万国博覧会(1939年)関連建築、カルドゾ・ホテル(1939年、マイアミビーチ)など。
1940年代以降: ミシガン州アナーバーのグレイハウンド・バスステーション(
1940年)、
ラスベガス・ユニオン・パシフィック・ステーション(
1940年)、アバロン・ホテル(
1941年、マイアミビーチ)、マーカンタイル・ナショナル銀行ビル(
1942年、
ダラス)、Huntridge Theater(
1944年、
ラスベガス)、ジェリー・ビル(
1946年、
ロサンゼルス)、シアーズ・ビル(
1947年、サンタモニカ)、
オハイオ州クリーブランドのグレイハウンド・バスステーション(
1948年)、スー・メモリアル・ガーデンズ(
1949年、カナダ)など。
これらの建築物は、ストリームライン・モダンの特徴である流麗な曲線と水平線を巧みに用い、時代を超えた美しさを持っています。
輸送機械への影響
ストリームライン・モダンの影響は、建築物にとどまりませんでした。自動車や飛行船などの輸送機械にも、そのデザインが取り入れられました。クライスラー・エアフロー(1934年)は、大量生産された最初のストリームラインカーとして有名です。ヒンデンブルク号(
1935年)やエレクトロライナー(
1941年)といった飛行船や鉄道車両にも、この様式の影響が見られます。
工業デザインと電化製品
アルミニウムや
フェノール樹脂といった新素材の活用も、ストリームライン・モダンを特徴付けています。電気時計、ミシン、ラジオ、掃除機といった電化製品にも、その洗練されたデザインが応用されました。ローソン社の「ゼファー」時計(
1933年)やGabel Kuroジュークボックス(
1940年)などは、ストリームライン・モダンのデザインを体現した製品として知られています。
映画への影響
ストリームライン・モダンの洗練された美しさは、映画の世界にも影響を与えました。
フランク・キャプラ監督の『失はれた地平線』(
1937年)におけるシャングリラや、『
オズの魔法使い』(
1939年)のエメラルドの都のデザインは、ストリームライン・モダンの影響を受けていると言われています。
ストリームライン・モダンは、建築様式を超えて、時代のデザイントレンドに大きな影響を与えた重要なデザインムーブメントでした。その流麗なフォルムと機能性を重視したデザインは、現在も人々を魅了し続けています。