ストレプトマイセス属

ストレプトマイセス属：抗生物質生産の担い手

ストレプトマイセス属は、グラム陽性細菌に分類される真正細菌の一種です。2021年7月現在、正式に認められた種は671種にのぼり、シノニムを含めると811種にも及びます。この属は、放線菌の大きな部分を占め、抗生物質生産において非常に重要な役割を果たしています。

生息環境と特徴

ストレプトマイセス属細菌は、主に土壌中に生息しています。土壌の独特な「土臭さ」は、この細菌が生産するゲオスミンや2-メチル-イソボルネオールといった揮発性有機化合物によるものです。多くの種が様々な抗生物質を生産することでも知られており、医療において大きな貢献を果たしています。 一方で、一部の種は根菜類に病気を引き起こすことが知られています。

ゲノムサイズ

ストレプトマイセス属のゲノムサイズは、細菌としては非常に大きく、一般的に700万～1000万塩基対（bp）にも及びます。なかでも、ラパマイシンを生産する Streptomyces rapamycinicus は、1270万bpという巨大なゲノムを持ち、真核生物である出芽酵母のゲノムサイズ（約1200万bp）とほぼ同等です。この大きなゲノムサイズは、多様な二次代謝産物、特に抗生物質生産に関わる遺伝子の豊富さを反映していると考えられます。

代表的な菌種と生産物質

ストレプトマイセス属には、様々な抗生物質や制がん剤を生産する種が含まれています。代表的な例として以下が挙げられます。

ストレプトマイシン生産菌 (S. griseus): ストレプトマイシンを生産します。ストレプトマイシンは、タンパク質合成を阻害することで細菌の増殖を抑制する抗生物質です。
*カナマイシン生産菌 (S. kanamyceticus): カナマイシンを生産します。カナマイシンもまた、細菌の増殖を阻害する抗生物質であり、梅沢浜夫らによって発見されました。
*ダウノマイシン生産菌 (S. peucetius): ダウノマイシンを生産します。ダウノマイシンは、強力な抗がん作用を持つ抗腫瘍剤として用いられています。
*アクラシノマイシン生産菌 (S. galilaeus): アクラシノマイシンを生産します。アクラシノマイシンは、心毒性が低く、急性白血病、悪性リンパ腫、乳がん等の治療に用いられる抗腫瘍剤です。
*フェノキサゾン系抗腫瘍性抗生物質生産菌 (S. parvulus, S. antibioticus)*: フェノキサゾン系の抗腫瘍性抗生物質を生産し、強い抗菌作用も持ちます。

まとめ

ストレプトマイセス属は、その多様な種と巨大なゲノムサイズ、そして数多くの抗生物質や制がん剤の生産能力から、医療分野において極めて重要な役割を果たす細菌群です。土壌環境における役割や、新たな有用物質生産菌としての可能性も秘めており、今後の研究がさらに期待されます。 また、一部の種が植物病原菌となる点も考慮に入れ、農業分野においても重要な研究対象となっています。

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