スパーヌウォン

スパーヌウォン：ラオス建国の父、そして「赤い殿下」

スパーヌウォン（1909年7月13日-1995年1月9日）は、20世紀ラオスの歴史を語る上で欠かせない人物です。彼は王族出身でありながら、ラオスの独立と共産主義革命の中枢を担い、「赤い殿下」の異名で知られました。本稿では、その生涯を辿りながら、複雑で激動のラオス近代史を紐解いていきます。

華麗なる出生とフランス留学

スパーヌウォンは、ルアンパバーン王国の王族、ブン・コン副王の子として生まれました。恵まれた環境で育ち、1931年から1938年にかけてフランスに留学し、土木工学を学んだ経歴を持ちます。この経験は、後の政治活動においても役立つこととなります。

反仏運動と抗戦政府

第二次世界大戦後、ラオスはフランスの支配下に戻ろうとする動きを見せました。しかし、独立を願うスパーヌウォンは、ラーオ・イサラ（自由ラオス運動）を組織し、反仏運動を主導します。1945年、異母兄のペッサラート副王が樹立したラーオ・イサラ抗戦政府において、彼は通信大臣に就任。その後、外務大臣、そしてラーオ・イサラ軍総司令官へと昇りつめます。1946年にはターケークの戦いで負傷するも、一命を取りとめました。

ラオスの分断と左派指導者

1949年、フランス連合内にラオス王国が成立しましたが、外交権と防衛権は認められませんでした。このことが、スパーヌウォン率いる左派と、異母兄のスワンナ・プーマ率いる右派との間の対立を鮮明にしました。ラーオ・イサラは分裂し、スパーヌウォンはネーオ・ラーオ・イサラ（ラオス自由戦線）を結成、抗戦政府首相に就任し、反仏闘争を続けます。

1953年のラオス完全独立後、内戦が勃発。スパーヌウォンは左派の指導者としてネーオ・ラーオ・ハクサート（ラオス愛国戦線）へと組織を改称、北ベトナムとの連携を深めます。王族出身ながら左派の旗頭となった彼は、「赤い殿下」と呼ばれるようになりました。

連合政府と投獄、脱獄

1957年にはスワンナ・プーマ首相率いる連合政府に参加し、大臣に就任。1958年の選挙では、ラオス愛国戦線が議席を獲得、スパーヌウォン自身もトップの得票数を獲得しました。しかし、右派の警戒を招き、1959年には逮捕・投獄されます。しかし、1960年5月に脱獄に成功、その後もパテート・ラーオ（ラオス人民解放戦線）の指導者として活躍します。

ジャール平原協定と内戦の激化

1960年、クーデターで右派政権が崩壊。スパーヌウォンはプーマの中立派と連合政府を樹立することで合意します。しかし、内戦は継続し、1962年の「ジャール平原協定」によって、再度連合政府が成立、スパーヌウォンは副首相兼大臣に就任します。しかし、1963年には中立派の分裂により内戦が再燃、連合政府は機能不全に陥ります。

ラオス人民民主共和国の樹立と晩年

1972年、ラオス人民革命党の党政治局員に選出されたスパーヌウォンは、1975年の内戦終結後、ラオス人民民主共和国の初代主席兼最高人民議会議長に就任します。しかし、実権はカイソーン・ポムウィハーン首相が掌握していました。晩年は病気療養にあたり、1986年に国家主席を休職、1991年に完全に政治の第一線から引退します。1995年、心臓病により85歳で死去しました。

「赤い殿下」の遺産

スパーヌウォンは、王族出身ながら共産主義革命に身を投じ、ラオス人民民主共和国の建国に大きく貢献した人物です。彼の生涯は、ラオスの複雑な歴史、そして冷戦下のインドシナ半島の激動を象徴するものです。彼の選択は、多くの議論を呼びますが、ラオスの歴史において、無視できない存在であることは間違いありません。彼の功績と複雑な政治的遺産は、現代のラオス社会にも深く影響を与え続けています。彼の長男、カムサイ・スパーヌウォンは、ラオスの政府高官を務めた後、ニュージーランドに亡命したという事実も、その複雑さを示す一つの側面と言えます。

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