スピリット複写機

スピリット複写機：20世紀中期の簡易印刷技術

スピリット複写機は、平版印刷の一種で、アルコール複写機や液体複写機とも呼ばれる、かつて広く普及した印刷方法です。特に1970年代までの北米やヨーロッパでは、学校、教会、サークル活動など、少部数印刷を必要とする様々な場所で活躍しました。製品名から、北米ではレクソグラフやディットーマシン、英国ではバンダマシンといった呼称も一般的でした。

発明と普及

1923年、アメリカのディットーコーポレーションのウィルヘルム・リッターフェルドによって発明されたこの技術は、安価で手軽な印刷手段として、謄写版と並んで普及しました。特に学校では、生徒のテスト問題やプリント作成などに頻繁に使用され、その独特のアルコール臭は、多くの人の学校生活の記憶に深く刻まれていると言えるでしょう。

ディットーの他、英国のアソシエーテッドオートメーション社が製造しブロック&アンダーソン社が販売した「バンダ」ブランドは、それぞれの地域でスピリット複写機の代名詞的存在として広く認知されました。A・B・ディック社やロネオ社など、欧米の複数の企業もスピリット複写機の製造・販売に携わっていました。

印刷原理と仕組み

スピリット複写機のマスター原紙は、筆記層とワックス層の二層構造になっています。筆記層に文字や図柄を書き込むと、筆圧によってワックス層の染料が筆記層の裏面に鏡像として転写されます。その後、筆記層をはがし、ワックス層をスピリット複写機の版胴に取り付けます。

印刷の際には、印刷用紙をアルコール系の溶剤で湿らせてから版胴に圧着します。これにより、ワックス層の染料が溶剤に溶け出し、印刷用紙に転写されます。この原理のため、印刷回数を重ねるごとに色が薄くなり、またワックスの剥落も発生するため、1枚のマスター原紙で印刷できる枚数は約40枚程度と限られていました。100枚以上の印刷は困難でした。

使用される溶剤は、印刷用紙への影響を最小限に抑えるため、揮発性の高いアルコール類が用いられました。当初はイソプロパノールとメチルアルコールの混合物が使われていましたが、後に非引火性で毒性の低い溶剤も開発されました。

ワックスの着色には、安価で発色の良い紫色のアニリン染料が一般的に使用されていましたが、赤、緑、青、黒など、様々な色のマスター原紙が用意されていました。これらのマスター原紙を組み合わせて使用することで、多色印刷も可能でした。また、ワックスの削り取りや切り貼りによる修正も容易だったため、芸術家もスピリット複写機を好んで使用しました。ただし、日光や蛍光灯の紫外線による退色が激しく、長期間の保存には適していませんでした。

まとめ

スピリット複写機は、安価で手軽な少部数印刷方法として、20世紀中期において重要な役割を果たしました。その独特のアルコール臭や、手作業による印刷工程は、多くの人々の記憶に残る技術と言えるでしょう。PPC複写機の普及によりその利用は減少しましたが、その簡便性と多様性は、現代の印刷技術の進化に貢献したと言えるでしょう。

もう一度検索