スプレンゲル爆薬

スプレンゲル爆薬：安全性を追求した革新的な爆薬

スプレンゲル爆薬とは、1870年代にヘルマン・スプレンゲルによって開発された爆薬の総称です。その最大の特徴は、高い安全性を実現するため、酸化剤と燃料を使用直前に混合する点にあります。強力な爆発力を持ちながらも、事前に混合された状態では安定しており、取り扱いが容易な点が大きなメリットでした。

スプレンゲル爆薬の爆発原理は、酸化剤と燃料の化学反応に基づいています。酸化剤としては硝酸、硝酸塩、塩素酸塩などが、燃料としては芳香族ニトロ化合物（ニトロベンゼンなど）が用いられました。これらの物質は、密接に接触することで、迅速かつ強力な反応を起こし、爆発を生じさせます。混合を容易にするために、酸化剤や燃料、あるいは両方が液体であることが求められました。

スプレンゲル自身の提案以外にも、様々なスプレンゲル爆薬が開発されました。例えば、液体酸素と木炭を組み合わせた液体酸素爆薬や、後述するラッカロックなどがその代表例です。また、硝酸アンモニウム（ANFO）に燃料油（軽油や灯油）あるいはニトロメタンを混合した爆薬もスプレンゲル爆薬の一種として挙げられます。

しかし、これらのスプレンゲル爆薬は、後にANFO爆薬に取って代わられました。ANFO爆薬は、その主成分である硝酸アンモニウムが肥料として広く利用されているため、入手が容易で安価であるという利点があります。さらに、硝酸アンモニウムは他の酸化剤に比べて安全性も高いため、現在ではスプレンゲル爆薬の中で最も広く使用されています。

ラッカロック：驚異的な海底爆破

ラッカロックは、代表的なスプレンゲル爆薬の一つです。塩素酸カリウムを酸化剤、ニトロベンゼンを燃料として使用していました。塩素酸カリウムは透過性カートリッジの形で提供され、使用直前にニトロベンゼンに浸して混合するという独特の方法で用いられました。水中での使用の場合は、カートリッジを缶に封入して使用しました。

ラッカロックの威力の大きさを示す有名な事例として、1885年のロングアイランド湾における海底爆破があります。この爆破では、100トンを超えるラッカロックが海面下20メートルのトンネルに設置され、約60万トンの岩塊を破壊するという驚異的な成果を収めました。この事例は、スプレンゲル爆薬、特にラッカロックが、大規模な土木工事においても有効であったことを示しています。

まとめ

スプレンゲル爆薬は、その発明当時、安全性の高い強力な爆薬として注目を集めました。様々な種類のスプレンゲル爆薬が開発され、大規模な土木工事などにも利用されてきました。しかし、現在では、より安価で安全なANFO爆薬が主流となっています。それでも、スプレンゲル爆薬の歴史は、爆薬技術の進歩における重要な一端を担っており、現代の爆薬技術の発展に貢献したと言えるでしょう。

関連項目

チェダイト
ミージアンキー
* 塩素酸カリウム

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