ニトロメタン

ニトロメタン：多様な用途と危険性を併せ持つ化学物質

ニトロメタン (CH3NO2) は、最も単純なニトロ化合物であり、やや粘性のある極性液体です。その多様な性質から、工業的に幅広く利用されています。医薬品、農薬、爆薬、繊維、塗料などの製造における中間体として、また、優れた溶媒としても活躍します。特にモータースポーツにおいては、高性能燃料として知られています。

製造方法

工業的には、プロパンと硝酸を高温 (350-450℃) で反応させることで生産されます。この発熱反応は、ニトロメタンの他に、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパンといったニトロアルカン類も生成します。この反応は、アルコキシラジカルの生成とC-C結合の切断を伴う複雑なフリーラジカル反応です。

教育目的では、クロロ酢酸ナトリウムと亜硝酸ナトリウムを水溶液中で反応させることで、より簡便にニトロメタンを合成できます。この反応では、ニトロメタンの他に塩化ナトリウムと炭酸水素ナトリウムが生成します。

化学的性質と有機合成への応用

ニトロメタンは極性溶媒として、有機化学や電気分析化学の分野で用いられます。有機合成においては、1炭素増炭試薬として重要な役割を果たします。弱酸性を示し、脱プロトン化することで、ニトロアルドール反応やマイケル反応などの求核付加反応に利用できます。ニトロアルドール反応では、塩基性条件下でアルデヒドに1,2-付加し、マイケル反応では、α,β-不飽和カルボニル化合物に1,4-付加します。

モータースポーツ燃料としての利用

ニトロメタンは、モータースポーツ、特にドラッグレースにおいて、高出力を得るための燃料として広く使用されています。その理由は、分子内に酸素原子を含んでいるため、空気中の酸素消費量が少なく、ガソリンと比べて単位体積あたりの燃焼効率が高いことにあります。ガソリン1 kgの燃焼には約14.6 kgの空気が必要ですが、ニトロメタンはわずか1.7 kgで済みます。そのため、エンジンは1ストロークでガソリンの約8.7倍の燃料を燃焼できることになります。ただし、ニトロメタンのエネルギー密度はガソリンより低く(ガソリン約42-44 MJ/kgに対し、ニトロメタンは約11.3 MJ/kg)、その出力の高さは酸素消費量の少なさが寄与しています。ニトロメタンは、外部からの酸素供給を必要としない一液式推進剤としても利用可能です。

ニトロメタンの燃焼速度は約0.5 m/sと速く、燃焼温度は約2400℃と高いですが、高い蒸発熱による冷却効果によって、エンジンの温度上昇を抑えることができます。トップフューエルドラッグレーシングでは、この冷却効果のみでエンジンの冷却を行っているほどです。通常、空気よりも燃料を多く含む混合比で使用され(Rich Air-Fuel Mixture)、これは空気不足でも出力が得られることと、ノッキングを起こしやすい性質によるものです。しかし、空気不足は着火の悪化や燃焼速度の低下につながる可能性もあります。空気含有量の少ない場合、燃焼生成物として水素や一酸化炭素が発生し、排気管から炎を上げることもあります。少量のヒドラジン添加によって、さらに出力を向上させることもできますが、爆発性の塩を形成するため、取り扱いには注意が必要です。

ラジコン飛行機やラジコンカーの燃料（グロー燃料）にも、メタノール、ニトロメタン、潤滑油を混合したものが使用されていますが、ニトロメタンの含有量は高価なため、30%を超えることは稀です。環境問題から、模型用燃料としての規制も進んでいます。また、ロケット燃料としても用いられています。

爆発物としての性質

ニトロメタンは、1950年代の貨車爆発事故以前は、爆発物としての危険性はあまり知られていませんでした。その後、TNTよりも高い爆発エネルギーを持つことが判明しました(爆速と猛度はTNTの方が高い)。酸素含有量が低いため、硝酸アンモニウムなどの酸化剤と混合することで、爆発力を高めることができます。オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件では、ニトロメタンと硝酸アンモニウムの混合物が使用されたとされています。純粋なニトロメタンは衝撃に対する感度はそれほど高くありませんが、危険性を低減するために安定剤が添加されることもあります。貨車爆発事故の原因は、液体の爆発物に共通する断熱圧縮によるものと推定されています。

主な特性

爆速: 6600 m/s
トラウズル値: 53
* 爆発熱: 3.89 kJ/g

ニトロメタンは、その多様な特性から様々な用途を持ちますが、取り扱いには注意が必要です。特に、爆発物としての性質を考慮し、安全な取り扱いと保管を心がけることが重要です。

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