スベリン

スベリンは、植物が作り出す特徴的な物質の一つです。蝋のような質感を持つこの物質は、コルクの主成分として古くから知られており、その名前もコルクガシの学名（Quercus suber）に由来しています。

生体構造と機能

スベリンは水になじみにくい疎水性の性質を持ち、いくらか弾力性のある物質です。その最も重要な働きは、植物の組織からの水分損失を防ぐこと、そして外部からの物質の侵入を制限するバリアとなることです。

特に、植物の根の内部にある内皮細胞では、細胞壁の一部にスベリンが帯状に蓄積し、「カスパリー線」と呼ばれる構造を形成します。このカスパリー線は、根から吸収された水や養分が、細胞壁の間を通る経路（アポプラスト経路）を通って中心部の維管束に直接到達するのを物理的に妨害します。これにより、水や養分は必ず内皮細胞の細胞膜を通過する経路（シンプラスト経路）を通ることを余儀なくされます。この仕組みがあるため、植物は細胞膜の働きによって、必要な水や養分だけを選択的に細胞内に取り込み、土壌中に含まれる有害な物質の侵入を防ぐことができるのです。例えば、塩分の多い海岸に生育するマングローブは、このスベリンによるバリア機能によって、過剰な塩分を体内に取り込まないようにしています。

また、スベリンは樹木の樹皮の最も外側にあるコルク層にも豊富に含まれています。このコルク層は、スベリンを多く含む死んだ細胞が集まってできたものであり、内部の生きた組織から水分が蒸散するのを防ぐ天然の防水シートのような役割を果たしています。

スベリンはこれらの主要な部位の他にも、植物のさまざまな部分で見られます。例えば、メロンの表面に見られる網目模様の一部にもスベリンが含まれています。

化学構造と生合成

スベリンの化学構造は複雑で、大きく分けて芳香族化合物の重合体と脂肪族化合物の重合体という2種類の高分子から成り立っています。芳香族成分は主に細胞壁に存在し、脂肪族成分は細胞壁と細胞膜の間に位置すると考えられています。これらの成分は、架橋構造によって強固に結びついていると推測されています。

スベリンを構成する個々のモノマーの種類やその比率は、植物の種類や組織によってさまざまに異なります。一般的な脂肪族モノマーとしては、長い鎖を持つα-ヒドロキシ脂肪酸（例えば18-ヒドロキシオクタデク-9-エン酸）やα,ω-二酸（例えばオクタデク-9-エン-1,18-二酸）などが知られています。一方、芳香族モノマーとしては、ヒドロキシ桂皮酸やその誘導体（フェロイルチラミンなど）が挙げられます。

さらに、一部の植物では、グリセリンもスベリンの重要な構成成分の一つとなることが知られています。グリセリンは、脂肪族成分同士や脂肪族成分と芳香族成分が重合する際に、それらを繋ぎ合わせる「つなぎ」のような役割を果たしていると考えられています。

スベリンが生合成される過程には、いくつかの酵素が関与しています。特に、芳香族成分の重合にはペルオキシダーゼと呼ばれる酵素が重要な働きをします。

興味深いことに、スベリンの脂肪族成分が作られる初期の段階は、植物の表面を覆うクチンという物質の生合成経路と共通しています。また、芳香族成分の生合成の初期段階は、植物の細胞壁を強化するリグニンの生合成経路と類似しています。

スベリンの芳香族成分には、フロバフェンという植物色素が含まれることもあります。

このように、スベリンは植物の水分調節や防御において極めて重要な役割を果たすユニークな物質です。

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