スペイン王子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像

スペイン王子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像

『スペイン王子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像』は、1800年にフランシスコ・デ・ゴヤによって描かれた肖像画です。この作品は、ロマン主義の巨匠であるゴヤの特異な感性と技術が凝縮されていて、現在はマドリードのプラド美術館に収蔵されています。

背景と制作の経緯

フランシスコ・デ・パウラ・アントニオは、スペインのカルロス4世と王妃マリア・ルイサの末っ子として1794年に誕生しました。彼の出生については噂があり、王妃と宰相マヌエル・デ・ゴドイの子供ではないかとも言われています。王子が8歳を迎える前に、フランス軍の侵攻によってマドリードからの退避を余儀なくされ、これが民衆の反乱を引き起こしました。彼はナポリに亡命し、1814年に帰国します。その後、両シチリア国王フランチェスコ1世の娘と結婚し、イザベル2世の夫となりました。

ゴヤの技術と表現

ゴヤは1799年に宮廷画家に任命され、翌年から『カルロス4世の家族』を制作しました。その過程で、彼はこの肖像画を含む10点の油彩習作を描きました。この作品は、その中でも特に力を入れて制作されたもので、非常に完成度が高いです。

幼い王子は、灰色の背景の前に立つ姿で描かれています。年齢はわずか6歳で、丸い顔と大きな瞳、短い鼻、そして前髪で隠れた額が特徴的です。彼の視線は鑑賞者に向けられ、挑戦的である一方、その瞳の大きさと微笑みは、観る者を惹きつけます。王妃は、息子の素直さと愛らしさを表現し、「彼はすべての人々に好かれる存在になろうと努力している」と語っています。

ゴヤはこの王子の快活さを捉え、周囲の関心を引く彼の性格を巧みに表現しています。特に、背景の灰色がかった明るいトーンが、王子の純粋で優しげな容姿を際立たせています。画面には、彼の右腕や下半身の輪郭が控えめな筆使いで描かれ、オレンジ色の地塗りが効果的に残されており、視覚的な深みをもたらしています。

王子の重要性

フランシスコ・デ・パウラ・アントニオは、国王夫妻の第3子であり、長男の病弱により王位継承の可能性が高い存在でした。そのため、ゴヤはこの肖像画において王子をほぼ中心に配置し、王妃と国王の間に立たせることで、彼の重要性を強調しています。完成した『カルロス4世の家族』では、王子の存在が計算されていることを示唆しています。

来歴と保存

この肖像画は王室コレクションに由来しているとされます。1834年には王室美術館の目録に記載されており、それまでにプラド美術館のコレクションに加わったと思われます。美術館の目録には1872年から名前が記載され、現在もプラド美術館において重要な作品のひとつとして展示されています。

まとめ

『スペイン王子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像』は、ゴヤの独自な画風が光る作品であり、歴史的背景を持つ王子の人生を物語っています。彼の表情や装飾品には多くの感情が込められ、今なお多くの人々の心を掴んで離すことはありません。

もう一度検索