スペイン航空宇宙軍

スペイン航空宇宙軍（Ejército del Aire y del Espacio）

スペインの防衛を担う組織の一つであり、空軍および宇宙分野の作戦を担当する機関です。その歴史は20世紀初頭に遡り、時代の変化と技術の発展に応じて組織の形態と名称を変えてきました。

歴史的背景

スペインにおける軍用航空の始まりは、1910年にスペイン王立陸軍が航空機および関連技術の研究に着手したことにあります。この研究活動が結実し、1913年10月には陸軍航空隊が設立され、これが現在のスペイン航空宇宙軍の前身となりました。第一次世界大戦にはスペインは直接参戦しませんでしたが、1925年の第三次リーフ戦争におけるアル・ホセイマ上陸作戦では、海軍の水上機母艦「デダロ」が航空支援を実施しました。これは上陸作戦において航空戦力が初期の段階から活用された注目すべき事例です。

スペイン内戦（1936年～1939年）では、当時の航空部隊はその大部分が人民戦線政府側に付き、「スペイン共和国空軍」を名乗りました。これに対し、航空戦力で劣っていた反乱軍（ナショナリスト派、フランコ将軍率いる）は、ナチス・ドイツやイタリアからの航空機やパイロットによる支援を受けて戦いました。この内戦は、スペインの航空部隊にとって大きな試練となり、その後の組織再編に影響を与えました。

内戦終結後間もない1939年2月28日、陸軍および海軍から独立した軍種として、新たなスペイン空軍が正式に創設されました。スペインは第二次世界大戦には中立の立場を取りましたが、空軍はドイツ製航空機の導入などにより戦力を強化し続けました。特に、独ソ戦においては一部のスペイン人パイロットが義勇兵「青戦隊」としてドイツ国防軍に参加したことも知られています。

戦後、国際的に孤立していたフランコ体制下のスペインは、1953年にアメリカ合衆国と米西防衛協定を締結しました。これにより、アメリカからの軍事支援を受けることになり、それまでドイツ製が中心だった装備は次第にアメリカ製に置き換えられていきました。また、協定の一環として、モロン、サラゴサ、トレホン・デ・アルドスといったスペイン国内の主要空軍基地へのアメリカ軍の駐留が認められました。

近年に至り、宇宙空間が国防上ますます重要性を増しているという認識に基づき、スペイン政府は2022年6月に従来の「空軍」（Ejército del Aire）の名称を「航空宇宙軍」（Ejército del Aire y del Espacio）へと改称することを発表しました。これにより、宇宙領域における活動の強化と、新たな安全保障環境への対応が図られています。

組織と機能

スペイン航空宇宙軍は、航空宇宙軍参謀総長（JEMAE）を頂点とする階層構造を持ち、大きく三つの主要系統で組織されています。第一は実力部隊系（Fuerza Aerea）で、戦闘航空集団、全般航空集団、カナリアス航空集団などが含まれ、実際の航空作戦や防空、輸送、捜索救難などの任務を遂行します。戦闘航空集団は即応性のある航空作戦を担当し、全般航空集団は平時の警戒任務や教育訓練、基地運用などを担います。カナリアス航空集団は、特にカナリアス諸島地域の防空と航空任務を専門としています。

第二は航空宇宙軍本部系（Cuartel General）で、参謀本部（EMA）や法務顧問など、組織全体の司令部機能や計画立案、戦略策定を担当します。第三の部隊支援系（Apoyo a la Fuerza）は、人事集団、会計局、後方支援集団などから構成され、人員管理、経理、装備品の調達・整備、施設管理といった部隊の活動を支える後方業務を一手に引き受けています。

また、スペイン航空宇宙軍は高い飛行技術を誇る曲技飛行隊を保有しており、C-101 アビオジェットを使用する「パトルーラ・アギラ」や、ユーロコプター EC 120を使用するヘリコプター曲技飛行隊「Patrulla ASPA」などが国内外の航空ショーで活躍しています。

スペイン航空宇宙軍の活動拠点は国内各地に展開しており、主要な空軍基地にはトレホン・デ・アルドス、サラゴサ、モロンなどがあり、国の防空ネットワークや輸送網の要となっています。

装備

主要な装備としては、EF-18 ホーネットやユーロファイター タイフーンといった近代的な戦闘機が主力として運用されています。輸送任務にはエアバスA400MやCASA C-212/CN-235などが用いられ、偵察や海洋哨戒にはCASA CN-235やP-3M オライオンが使用されています。練習機としてはC-101やF-5M、PC-21などがパイロット育成に不可欠な役割を果たしており、回転翼機ではAS332やNH90などが多様な任務に投入されています。これらの装備は、スペインの空域および宇宙領域の防衛、そして国際的な平和維持活動などにおける航空宇宙軍の能力を支えています。

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