スペースX CRS-5

スペースX CRS-5ミッションは、「SpX-5」という略称でも知られ、アメリカ航空宇宙局（NASA）の商業軌道輸送サービス（CRS）契約に基づき、宇宙開発企業のスペースXが国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送のために実施した補給ミッションです。これは、スペースXが開発・運用するドラゴン補給船にとって通算7回目の宇宙飛行にあたり、特にNASAとのCRS契約に基づく運用ミッションとしては5回目の実施となりました。

打ち上げまでの経緯

このミッションの打ち上げは、当初2014年12月「より早くはない」時期に計画されていました。その後、打ち上げに向けたスペースX社の準備期間を確保するため、予定は2014年12月19日に変更されます。さらに、より確実な打ち上げの成功を目指した追加試験を実施するため、打ち上げ日は2015年1月6日に再度延期されました。

2015年1月6日の打ち上げ試みでは、ファルコン9ロケットの第2段エンジンに搭載された推力偏向制御系アクチュエータのうち1基に不具合（ドリフト）が確認されたため、打ち上げ予定時刻のわずか1分21秒前にカウントダウンが中止されました。その日のうちに打ち上げ可能な「即時打ち上げウィンドウ」を逃したため、飛行は2015年1月9日に延期されることとなりました。

技術的な問題への対応を経て、翌1月7日には、打ち上げ日が最終的に2015年 1月10日に設定されました。

打ち上げとISSへの到着

グリニッジ標準時（UTC）2015年 1月10日午前9時47分、ファルコン9ロケットはフロリダ州のケープカナベラル空軍基地から成功裏に打ち上げられました。ドラゴン補給船は順調に飛行を続け、打ち上げから2日後の1月12日にISSへと到着しました。

ISSに接近したドラゴン補給船は、宇宙飛行士の巧みな操作により、UTC午前10時54分にISSのロボットアーム「カナダアーム2」によって捕捉されました。その後、ISSのロボットアームによる移動を経て、同日午後1時56分には、ISSの「ハーモニー」モジュールに設けられた地球側（天底側）の共通結合機構（CBM）ポートに無事係留が完了しました。

搭載貨物

CRS-5ミッションでは、合計2317kgの貨物がISSへ輸送されました。これには、ISS滞在クルーのための食料品や日用品など（490kg）、ISS自身の維持・運用に必要な機材や設備（717kg）、そして多岐にわたる科学実験用の装置や材料（577kg）が含まれます。

特に重要な貨物の一つとして、「クラウド・エアロゾル・トランスポート・システム（CATS）」が搭載されました（494kg）。CATSは、地球の大気中に存在する塵、煙、エアロゾルなどの微粒子汚染の構成、分布、そして高さを詳細に計測するために開発されたLIDAR（レーザーレーダー）を用いたリモートセンシング装置です。この装置は、日本の実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置され、最低6ヶ月から最長で3年間程度の運用が予定されており、地球環境研究への貢献が期待されました。

ロケット第1段の回収試験

このCRS-5ミッションでは、将来的な再利用可能なロケットシステムの実現を目指した、ファルコン9ロケット第1段ブースターの回収に関する先駆的な飛行試験も同時に実施されました。打ち上げ後、役割を終え燃料をほぼ使い切った第1段を、大西洋上の巨大な浮体プラットフォームである「自律スペースポートドローン船（Autonomous Spaceport Drone Ship, ASDS）」に着陸させることを試みました。

このASDSは、全長90m、幅50mの広さを持つ洋上基地であり、ルイジアナ州で建造された後、試験準備のためフロリダ州ジャクソンビルに回航されていました。試験では、ロケットの降下経路を精密に制御する技術や、再突入時の正確な位置制御に用いるグリッドフィン操舵面に関する運用データの収集など、多くの技術的な目標が設定されました。実際に、これらの制御に関する大量の貴重な試験データが得られ、多くの試験目標は達成されました。

しかし、残念ながら、第1段のASDSへの着陸は衝撃の大きい「硬着陸」となり、ブースター本体は着陸時に破損してしまいました。スペースXは、事故の原因究明と今後の開発に向けた試験・分析のため、残されたロケット部品の回収作業を実施しました。

硬着陸の詳しい原因は公的にはまだ完全に明らかにされていませんが、スペースXの創業者であるイーロン・マスク氏は、着陸制御に使用するグリッドフィンの作動液が枯渇した可能性を原因の一つとして示唆しています。スペースXが公開したウェブキャスト映像では、降下中の第1段が逆噴射による減速燃焼と再突入燃焼を実施し、予定通り機体が垂直姿勢に立て直される様子が確認できましたが、機体が垂直になった時点でリアルタイムのデータ配信は停止されました。その後、スペースXは公式発表を行い、ロケットは確かに無人着陸船には到達したものの、「硬着陸」となり、船自体は無事だったものの、デッキ上のいくつかの支持設備が交換を要するほど損傷したことを明らかにしました。この歴史的な着陸試験の模様を捉えたビデオは、当時のソーシャルメディアプラットフォームであるVineを通じて公開され、大きな注目を集めました。この試験で得られたデータは、その後のロケット回収技術の発展に不可欠なものとなりました。

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