スマート・ルームミラー

スマート・ルームミラーとは

スマート・ルームミラーは、従来の光学式ルームミラー（バックミラー）に代わり、液晶ディスプレイを内蔵し、車体後部に設置された高解像度カメラからの映像を映し出すシステムです。これはカメラモニタリングシステム（CMS）の一種と位置づけられており、「スマート・バックミラー」と呼ばれることもあります。

主要な構成要素は、車両後方のリアウインドウ内側に取り付けられた広角カメラと、従来のミラー部分に組み込まれた高精細ディスプレイです。このシステム最大の利点は、従来の光学ミラーが抱えていた課題を解消できる点にあります。

従来のルームミラーでは、後席に座る同乗者やトランクに積んだ荷物によって後方視界が遮られたり、夜間や大雨といった悪天候時に十分な後方確認が困難になることが少なくありませんでした。しかし、スマート・ルームミラーは、カメラで捉えた映像を直接ディスプレイに表示するため、車内の状況や天候に左右されることなく、常に鮮明で広範囲な後方視界を確保できます。これにより、ドライバーは車両後方やその周囲の状況をより正確に、そして安全に把握することが可能になります。

製品によっては、ボタン操作一つでデジタル映像表示と従来の光学ミラー機能を切り替えられるハイブリッドタイプや、車両の運転状況を記録するドライブレコーダーの機能も統合しているものも存在します。

歴史的背景

車両後方を映像で確認するという概念は、古くから存在しました。最初の試みは、1956年のコンセプトカーにまで遡ります。この頃には既に、バックミラーの代替として、リアに取り付けたテレビカメラの映像をダッシュボードのモニターに映し出すシステムが考案されていました。

量産車として初めて後方確認用カメラを搭載したのは、1991年にトヨタ自動車から発売された「ソアラ」とされています。これは現在のバックアップカメラの先駆けと言えるでしょう。

その後、特に視界の確保が難しい大型トラックやバスなどの商用車を中心に、後退時の安全確認を目的とした後方確認用カメラが普及しました。これらの車両では、映像は主にカーオーディオやカーナビゲーションシステムの液晶画面に表示される形が一般的でした。

スマート・ルームミラーという現在の形に発展する大きな転機となったのは、2014年です。日産自動車が、ルームミラーそのものにディスプレイを内蔵し、光学ミラーとカメラ映像表示を切り替え可能なシステムを世界で初めて開発しました。この技術は、同年3月のジュネーブモーターショーで「スマート・ルームミラー」として発表され、後方視界技術の新たな方向性を示しました。

主要メーカーと製品例

現在、多くの自動車メーカーや自動車部品メーカーから、様々な特徴を持つスマート・ルームミラーが提供されています。以下に、その一部をご紹介します（五十音順）。

スバル: 「スマートリヤビューミラー」として、レヴォーグ、WRX S4、フォレスターといった主要モデルに装備されています。
トヨタ自動車: 「デジタルインナーミラー」の名称で展開しています。ハリアー（Gグレード以上）などに標準装備されており、車両の前後方向のカメラ映像を同時に内蔵のmicroSDカードに録画できるドライブレコーダー機能一体型モデルも提供しています。
日産自動車: 世界初の切替式スマート・ルームミラーを開発したパイオニア的存在。「インテリジェント ルームミラー」として製品を展開しており、車両周囲を俯瞰映像で確認できる「インテリジェント アラウンドビューモニター」の表示機能を持つタイプもラインナップされています。同社の安全技術思想である「ニッサン・インテリジェントモビリティ」の一環として位置づけられています。
パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社（AIS）: 自動車部品メーカーとして、「電子インナーミラー」を開発・供給しています。トヨタ自動車の純正部品としても採用されている実績があります。
パイオニア: カーエレクトロニクス分野のメーカーとして、「TMX-DM01-VA」などの型番で製品を展開。GPSなどの衛星測位システムやジャイロ・加速度センサーを搭載し、カーテレマティクス端末としての機能に加え、ドライブレコーダーとしても利用可能です。
本田技研工業: 「アドバンスドルームミラー」を提供しています。エンジン（パワー）スイッチと連動してシステムが起動し、通常のミラーモード選択時には自動防眩機能が働くなど、実用的な機能が盛り込まれています。
* モブボイ: 「問問魔鏡（TicMirror）」という製品名で知られています。この製品は4G通信機能や高度な音声認識機能を搭載しており、ドライバーは音声コマンドを使ってナビゲーションの目的地設定、メッセージの送受信、音楽再生といった様々な操作を行うことができる点を特徴としています。

関連技術と用語

スマート・ルームミラーは、車両の安全性を高めるための技術であり、しばしば先進運転支援システム（ADAS）の一部として捉えられます。また、光学的なミラーに代わりカメラとディスプレイを用いる点では、サイドミラーを置き換えるデジタルミラー（デジタルアウターミラー）と共通する技術要素を持っています。

映像を記録するという機能に着目すれば、運転中の状況を常時録画するドライブレコーダーや、事故発生時のデータを記録するイベントデータレコーダーとも関連性の深い技術と言えるでしょう。

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