スモルト

スモルトとは？サケ・マス類の銀化現象を徹底解説

スモルトとは、サケやマスといった魚類が、河川から海洋へと生活の場を移す際に起こる生理的・形態的な変化を経た状態を指します。この変化は「銀化変態」や「スモルト化」と呼ばれ、外見上の変化だけでなく、海水への適応能力を獲得することが特徴です。

スモルト化とは

スモルト化は、単なる外見の変化ではありません。魚が生きていく環境を大きく変えるための、重要な適応プロセスなのです。

外見上の変化

スモルト化の際、魚体は以下のような変化を見せます。

体色の変化: パーマーク（特有の模様）が薄れ、銀色に変化します。これは、ヒポキサンチンやグアニンといった色素量の増加によるものです。
形態の変化: ヤマメの場合、肥満度が低下したり、背ビレや尾ビレの先端が黒化したりします。

海水耐性の獲得

スモルト化の最も重要な点は、海水への適応能力を獲得することです。具体的には、以下の変化が起こります。

鰓のATPアーゼ活性の上昇: これにより、血中ナトリウム濃度の調整が可能になり、海水中で浸透圧を維持できます。

海水耐性を獲得したスモルトは、河川に比べて餌が豊富な海洋での生活に適応し、急速な成長を遂げます。成長ホルモンの分泌も活発になり、河川残留型と比較して2〜4倍の体長に成長することもあります。

スモルト化のメカニズム

スモルト化は、複数のホルモンが複雑に関与する現象です。

ホルモンの関与

甲状腺ホルモン
成長ホルモン
コルチゾル

環境要因

自然界では、以下の要素がスモルト化を左右すると考えられています。

水槽の青色
生息密度
餌の量

一般的に、魚種ごとに一定の体長や体重に達した個体がスモルト化すると考えられています。スモルト化の時期は、同一魚種でも地域によって差が見られます。ヤマメやアマゴでは、性別によってもスモルト化のしやすさに差があり、北海道ではメスのほとんどがスモルト化します。

養殖においては、青色の水槽で飼育することでスモルト化を促進できることが知られています。

スモルト化の段階

北海道に生息するヤマメを例にとると、スモルト化は段階的に進行します。

1. 銀化兆候（2月頃）: 「銀化パー」と呼ばれる状態が現れます。
2. 前期スモルト（4月頃）: 背ビレ先端部の黒化が見られ、グアニン色素量が増加し、パーマークが薄れます。
3. 中期スモルト（5月頃）: 銀色がさらに強くなり、背ビレの黒化が進みます。
4. 後期スモルト（6月頃）: 体色は銀白色となり、パーマークは消失します。背ビレは完全に黒くなり、スモルト化が完了します。

スモルト化が完了すると、体の厚みが薄くなり、肥満度が減少します。血中のチロキシン濃度は銀化の始まりとともに上昇し、銀化の最盛期に最大値となりますが、その後は減少していきます。

降海は群れで行われますが、スモルト化の進行とともに攻撃性は弱まります。

降海のきっかけは、降雨による増水や月の満ち引きが影響すると考えられています。特に新月が降海を誘発すると言われています。

稚魚は、淡水から直接海水に入ると生存率が低下するため、汽水域で一定時間順応してから海水生活に移ると考えられています。観察の結果、稚魚は約12時間で海水対応能力を身につけることが明らかになっています。

スモルト化決定の主要因

桑田(2017)の研究によると、アマゴのメスを用いた実験で、スモルト化の主要因は体サイズであることが示唆されています。

成長率とは関係なく、初秋のスモルト決定期に閾値体重を超えた個体がスモルト化する。
決定期以後に閾値体重を超えてもスモルト化しない。
決定期に閾値体重を超えていた場合は、決定期以後の成長を抑制しても大部分がスモルト化する。
決定期に閾値体重を超えなかった場合は、早く成長させてもスモルト化しない。

養殖におけるスモルト

養殖の目的によって、スモルトに対する捉え方は異なります。

資源増殖のための養殖

海洋生活をさせ、より成長した個体を捕獲することが目的であるため、回帰率を高めるために銀化した個体を放流します。特に、自然降海型が生息しないベニザケでは、スモルト化時期を人為的に制御し発現させ放流を行っています。

食用養殖

銀化した個体は体が薄く体脂肪量が落ち食味が悪化することから食用魚としては敬遠され流通せず、多くは遊漁用に放流されるか次世代のための親魚として利用されます。

種による差違

スモルト化の様相は、種によって異なります。

ビワマス: 琵琶湖固有種で、海水耐性を失っています。スモルト化しても海水中では生存できません。
サケ・カラフトマス: 孵化後すぐに降海し、海洋生活を行います。
ベニザケ: 1〜3年、河口付近の湖沼で滞留後に降海します。天然の個体は0歳魚の8月と1歳魚の5〜6月にスモルト化します。人工的にスモルトを発現させることも可能で、母川回帰した個体の捕獲を目的とした放流に役立っています。

スモルト化は、サケやマスが厳しい自然界で生き抜くための、巧妙な戦略なのです。

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