スラップスティック (小説)

スラップスティック（Slapstick, or Lonesome No More）

カート・ヴォネガットによって1976年に発表された『スラップスティック』は、彼の8冊目の長編小説であり、自己の人生観を反映した自伝的要素が色濃く感じられる作品です。この物語は、断章形式で構成されており、さまざまな視点から独特のテーマを探求していきます。

物語の概要

異常な兄妹の物語

物語は、特徴的な容貌を持つ姉と弟の兄妹が富裕層の家庭に生まれる場面から始まります。この兄妹は、互いに身を寄せ合った時にのみ、その天才的な能力を発揮できるという特異な存在です。しかし、周囲の偽善的な善意により、彼らは無理やり引き離されてしまうのです。その結果、二人はそれぞれ孤立し、彼らの潜在能力は引き出されません。

弟はその後、医者としてのキャリアを築き、素晴らしい成果を上げていきますが、最終的には没落しつつあるアメリカの大統領としての地位にまで登りつめます。彼は「ミドルネーム」を通じて、人々を無関係な親類に結びつけるという奇抜な政策を実行するのです。

離れた運命の再会

一方で、姉の運命は異なります。彼女と弟は、数回しか会うことがなく、それぞれの人生を歩む中で、しばしば孤独を抱えています。彼らが会ったのは、最初が結合して育児の本を執筆し、大ヒットを飛ばしたとき、次が医科大学の卒業パーティー、そして最後は姉が亡くなった後に特殊な装置を使って交信したときです。この希少な再会の時がもたらす感情や思いは、兄弟の絆を感じさせます。

作品の背景

本作には「アーサー・スタンリー・ジェファソンとノーブル・ハーディのふたりにささげる」という文言が記されていますが、これは著名なコメディアン・コンビ、ローレル&ハーディの本名に由来しています。この表現からも、ヴォネガットがコメディの要素を作品に取り込んでいることが窺えます。

日本語訳と映画化

『スラップスティック』は、浅倉久志の翻訳により1979年に日本語版が出版され、後にハヤカワ文庫としても登場しています。また、映画化もされましたが、ジェリー・ルイスが主演する『スラップスティック 双子の鶏フン大騒動』は、原作のストーリーとはあまり直接的な関連はありません。

関連文献

ヴォネガットのこの作品は、エコクリティシズムの観点からも分析されています。例えば、塩田弘や松永京子、浅井千晶などの編著による『エコクリティシズムの波を超えて 人新世の地球を生きる』では、彼の作品が持つ環境に対する感受性についても論じられています。また、中山悟視は彼の作品が描くエコロジカル・ディストピアについての研究を発表しています。

影響と評価

本作に感銘を受けた柴田元幸は、卒業論文でヴォネガットについて取り上げるなど、その影響は多岐にわたります。『スラップスティック』は、個人の孤独と結びつき、社会のあり方について深く考えさせる作品であり、今も多くの読者に愛されています。

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