スリ (1959年の映画)

映画『スリ』の魅力と深層

『スリ』（原題：Pickpocket）は、1959年に公開されたフランス映画で、名監督ロベール・ブレッソンの代表作の一つです。この作品は、フランスの新しい批評の潮流を受け、同年に開催された第一回「新しい批評賞」で最優秀フランス映画賞を受賞しました。映画は、スリという犯罪行為を通じて人間の内面的な葛藤を描き、その独自の表現方法で観る者を魅了します。

物語は、主人公の青年がスリとしての技術を駆使し、罪を犯し続ける中で、徐々に彼自身の内面での葛藤と更生の道を模索する過程を描いています。ブレッソンは、登場人物の心理的な動きを巧みに映し出し、観る者に深い感銘を与えます。犯罪サスペンスとしての一面だけでなく、哲学的な観点からも楽しめる作品となっています。

特に印象的なのは、主人公が自らの選択を後悔するシーンや、他のキャラクターとの触れ合いを通じてスリ行為に対する罪悪感を抱く様子です。これらの描写は、ブレッソンの特徴であるミニマリズムとリアリズムを反映しており、観客はリアルな人間の姿とその内面的な葛藤を目の当たりにします。

さらに、映画の制作にあたっては、ブレッソンのスタイルらしい斬新なキャスティングが行われました。主演を含むほとんどのキャストが素人で、特にスリの演技指導を担当したのは、劇中でスリの頭目を演じる魔術師カッサジです。彼の存在は、映画にリアリティを与え、プロレスのような高度な演技が求められるシーンにおいて重要な役割を果たします。

脚本や台詞は、名監督自身であるブレッソンが手がけており、作品に独特のリズムを与えています。撮影は、レオンス・アンリ・ビュレルが担当し、パリ市内や北駅という実際のロケ地で撮影されました。これにより、映画の舞台はリアルさを増し、登場人物たちの生活感が際立ちます。

また、この映画は映像美にも秀でています。ブレッソンの特有の視点は、パリの街並みを美しく捉え、観客にその魅力を伝えます。映像の構図や光の使い方において、緻密な計算がされていることが感じられ、単なる犯罪サスペンスを超えた芸術作品としての側面を強く印象付けます。

この映画は、単なるエンターテインメントを超え、哲学的な themes や人間性について深く考えさせられる作品です。ブレッソンの演出により、スリという行為そのものが持つ非倫理的側面に光を当て、同時に主人公の成長を描くことで倫理観を問う内容となっています。観るたびに新たな発見があれば、この作品を理解するための旅は尽きることがありません。『スリ』を通じて、あなたも犯罪の背後にある人間心理の深淵を探ることができるかもしれません。

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