スレッジハンマー (曲)

スレッジハンマー（Sledgehammer）

ピーター・ガブリエルが1986年に発表した楽曲「スレッジハンマー」は、彼の通算5作目のスタジオ・アルバム『So』からの最初のシングルとしてリリースされ、世界的な大ヒットを記録しました。この楽曲は、それまで主にプログレッシブ・ロックやアート・ロックといったジャンルで活動してきたピーター・ガブリエルが、よりポップな音楽性へと大胆に接近したことを示す一曲であり、そのキャリアにおける重要な転換点となりました。

商業的な成功とチャート記録

アルバム『So』が全体としてより親しみやすいサウンドを目指した中で、「スレッジハンマー」はその方向性を象徴する楽曲です。ファンキーなリズム、ホーンセクションの導入など、当時のR&Bやソウルミュージックからの影響も感じさせる、躍動的で耳に残るサウンドが特徴です。この新たなサウンドは商業的に大成功を収め、特にアメリカ合衆国ではビルボードHot 100チャートで第1位を獲得しました。これは、1986年7月26日付のチャートにおいて、奇しくもピーターがかつて在籍したバンドであるジェネシスのヒット曲「インヴィジブル・タッチ」から首位の座を奪う形での達成でした。

この楽曲のチャートにおける最も注目すべき記録は、米ビルボードの主要チャートであるHot 100で首位を獲得した楽曲の中で、「Album Rock Tracks」（現：Mainstream Rock Chart）と「Hot Dance/Disco」（現：Dance Club Songs Chart）という、通常はリスナー層や音楽性が大きく異なると見なされるロックとダンスという二つのジャンルの専門チャートでも同時に首位に立った、史上唯一の楽曲であるという点です。この他に類を見ない記録は、「スレッジハンマー」がいかに幅広い層のリスナーに受け入れられたか、そして楽曲そのものが持つジャンルを越えた普遍的な魅力を証明しています。

この全米No.1は、ピーター・ガブリエルにとってソロ名義でのキャリアにおいて初の、そして現在までで唯一のHot 100における首位獲得記録となりました。また、母国イギリスにおいても、全英シングルチャートで最高4位を記録し、彼の最も成功したシングルの一つとして、「ゲームズ・ウィズアウト・フロンティアーズ」と並んで記憶されています。カナダにおいてもチャートの頂点に立つなど、北米市場での圧倒的な強さを見せつけました。

革新的なプロモーション・ビデオ

楽曲のヒットに大きく貢献したのが、その独創的なプロモーション・ビデオです。スティーヴン・R・ジョンソンが監督を務め、クレイアニメーションやピクシレーション（実写の被写体を少しずつ動かして撮影する手法）、ストップモーションなど様々な手法を組み合わせて制作されました。特に、後に『ウォレスとグルミット』シリーズで知られるアードマン・アニメーションズや、幻想的で不気味な世界観でカルト的な人気を博すブラザーズ・クエイといった、当時最先端のストップモーション技術を持つスタジオが制作に参加したことは、ビデオの質の高さを保証しました。映像中には、曲名にちなんだ「大槌」がモチーフとして繰り返し登場し、ユーモラスでありながらもシュールな世界観を展開しています。

この革新的なビデオは、1987年のMTVミュージック・ビデオ・アワードで最多9部門を受賞、中でも最も権威ある「ベスト・ビデオ」に選ばれるなど、その後の音楽ビデオの表現に多大な影響を与えた傑作として高く評価されています。

日本での認知と余話

日本国内では、この楽曲の冒頭および2番のサビ終了後に特徴的に響く尺八の音が、フジテレビ系列でかつて放送されていた人気バラエティ番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』内のコーナー「新・食わず嫌い王決定戦」における、出演者が食事を試食する「実食」シーンのBGMとして長年使用されていました。この使用法は、楽曲そのものよりも、この短いフレーズが特定のシチュエーションと結びついて広く一般に認知されるきっかけとなりました。また、プロ野球選手として活躍したターメル・スレッジ氏は、自身の名前に本楽曲のタイトルが含まれていることから、現役時代に打席に入る際の登場曲として使用していました。

結び

音楽史において「スレッジハンマー」は、ピーター・ガブリエルのキャリアの転換点を示すとともに、ジャンルを超えた商業的成功、そして音楽と映像表現の融合における金字塔として、今なおその輝きを失っていません。その力強いサウンドと視覚的なインパクトは、発表から数十年を経た現在でも、多くの音楽ファンに語り継がれています。

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