スレナス

スレナス：ローマを打ち破ったパルティアの英雄、その栄光と悲劇

スレナス（紀元前84年 - 紀元前52年）は、パルティアの貴族であり、カルラエの戦いにおける勝利で歴史に名を残しました。彼の名はギリシア語文献にのみ登場し、正確な本名は不明です。パルティア王オロデス2世に仕え、ローマ軍を打ち破りました。その卓越した軍事的手腕は、敵であるローマにも衝撃を与えました。

生涯

スレナスは、パルティアの七大氏族の一つであるスーレーン氏族の出身です。この氏族は、王に匹敵するほどの強大な権力を持っていました。スーレーン氏族は特に重要な地位を占め、歴代の王の即位において戴冠の役目を担っていました。オロデス2世に王冠を授けたのも、スレナス自身でした。

スレナスの名が歴史に登場するのは、ローマとの戦いにおいてです。当時、ローマは共和政末期であり、カエサルやポンペイウスといった英雄たちが活躍していました。クラッススは、彼らの名声に焦り、自らも軍事的な成功を収めようとパルティアへの遠征を計画しました。

紀元前54年、クラッススは精強なローマ軍を率いてパルティアに侵攻しました。この迎撃を任されたのが、当時30歳であったスレナスです。彼は若くして歴戦の武将であり、王の支持基盤であるスーレーン氏族の当主という地位も有していました。しかし、当時のパルティアは内政が不安定であり、ローマ軍に対抗できる十分な兵力をすぐに用意することができませんでした。

そこでスレナスは、焦土戦術を採用し、ローマ軍をパルティア領内深く誘い込みながら、反撃の機会を待ちました。ローマ軍は、シリア砂漠を横断してメソポタミアに侵攻するという戦略を取りましたが、これはローマ軍にとって大きな負担となりました。スレナスはこれを見逃さず、砂漠でローマ軍に奇襲を仕掛けました。

カルラエの戦い

スレナスの手勢は、1,000の重装騎兵と9,000の軽装騎兵に過ぎませんでした。しかし、彼は大量のラクダを用意し、矢筒を積ませて戦陣の後方に配置しました。パルティア軍は、パルティアンショット戦法を駆使し、ローマ軍に絶え間ない矢の雨を降らせました。ローマ軍は防御陣形を敷き、パルティア騎兵が矢を射尽くすのを待って反撃しようとしましたが、スレナスの用意したラクダ部隊によって、パルティア軍の矢は尽きることがありませんでした。

ローマ軍は、砂漠の過酷な環境とパルティア軍の容赦ない攻撃によって疲弊し、日射病で倒れる兵士も続出しました。スレナスは、改良を施した弓をパルティア兵に装備させており、その矢は射程が長く、威力も絶大でした。パルティア軍は、ローマ兵の弓矢の射程外から攻撃できるだけでなく、その矢はローマ兵の盾を貫通することもあったと言われています。

クラッススは、息子のプブリウスに重装騎兵を率いて突撃を命じましたが、スレナスは退却するふりをしてプブリウスの部隊を誘い込み、包囲して殲滅しました。プブリウスは戦死し、その首はローマ軍本隊に投げ込まれ、ローマ軍の士気は完全に崩壊しました。パルティア軍はほとんど損害を受けることなく、日没とともにこの日の戦いを終えましたが、ローマ軍はすでに壊滅状態でした。

ローマ軍は撤退を開始しましたが、スレナスは追撃を続け、クラッススも戦死しました。捕虜となった1万の兵士を除き、ローマ軍はほぼ全滅するという大敗北を喫しました。これが、ローマ史に残るカルラエの戦いです。

その後

カルラエの戦いでの勝利によって、スレナスは絶大な権力と名声を手に入れましたが、そのことが主君オロデス2世の警戒心を招き、最終的には粛清されてしまいました。スレナスの死後、オロデス2世は自らローマとの戦争を指揮しましたが、スレナスほどの軍事的才能はなく、国内での騒乱も重なり、ローマとの戦いを中断せざるを得ませんでした。

一方、ローマでは、クラッススの戦死によって三頭政治が崩壊し、カエサルとポンペイウスが対立を深め、やがてカエサルが帝政を開始することになります。

スレナスは、その軍事的才能によってローマに大きな衝撃を与えましたが、その栄光は長くは続きませんでした。彼の生涯は、パルティアの激しい権力闘争の犠牲となった英雄の悲劇を物語っています。

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