カルラエの戦い

カルラエの戦い：ローマを打ち砕いたパルティアの戦術

紀元前53年、現在のハッラーン近郊のカルラエで、ローマ軍とパルティア軍が激突しました。この戦いは第一次パルティア戦争の帰趨を決める重要な戦いであり、ローマの大敗という結果に終わりました。

背景：クラッススの野望とパルティア遠征

当時のローマは、マルクス・リキニウス・クラッスス、グナエウス・ポンペイウス、ガイウス・ユリウス・カエサルの三頭政治によって支配されていました。クラッススは、軍事的な実績を欲し、パルティア遠征を計画します。元老院は反対しましたが、カエサルとポンペイウスの賛成もあって、遠征は実行に移されました。

紀元前55年、クラッスス率いるローマ軍はシリア属州に到着。アルメニア王は、アルメニア領内を通るルートを推奨しましたが、クラッススはこれを拒否し、シリアから直接パルティアへ向かいます。しかし、これがローマ軍にとって大きな誤算となります。

パルティア王オロデス2世は、軍を二手に分けました。自身は正規軍を率いてアルメニアを攻撃、もう一方の軍勢をスレナスに託し、クラッスス率いるローマ軍を迎え撃たせます。スレナスが率いるのは、弓矢を装備した軽騎兵が主体の私兵軍でした。

戦闘の経過：ローマ軍、パルティアの戦術に翻弄される

ユーフラテス川を渡り終えたクラッススは、アルメニアからの不参戦の知らせを受けますが、進軍を止めませんでした。ローマ兵は、砂漠地帯での行軍で疲弊し、脱水症状や熱射病に苦しみます。

カルラエ近郊で、ローマ軍はついにパルティア軍と遭遇します。クラッススは急いで陣形を整えましたが、パルティア軍の攻撃は容赦ありませんでした。ローマ軍は、重装騎兵の攻撃に備えましたが、実際に襲いかかったのは、パルティア軽騎兵による矢の雨でした。

ローマ兵は、密集した陣形を維持し、盾で身を守るのが精一杯でした。しかし、パルティア軍は大量の矢を積んだラクダを配備しており、矢の供給が途絶えることはありませんでした。パルティア軍の弓矢は改良されており、射程と威力が増していました。そのため、ローマ兵の盾を貫通し、一方的に攻撃することができたのです。

クラッススは、状況を打開するため、息子のプブリウスに騎兵突撃を命じます。しかし、スレナスは退却するふりをしてプブリウス隊を誘い込み、包囲殲滅します。プブリウスは自害し、その首はローマ軍に投げ込まれました。これにより、ローマ軍は大きく動揺し、陣形は崩壊します。

戦いの結果：ローマの大敗と影響

カルラエの戦いは、パルティア軍の圧倒的な勝利に終わりました。クラッスス自身も戦死し、その首はオロデス2世のもとへ送られました。この勝利により、パルティアはローマに対する優位を確立します。

しかし、オロデス2世はスレナスの才能を妬み、最終的に粛清してしまいます。スレナスの死後、オロデス2世は自ら軍を指揮するようになりますが、その手腕はスレナスには遠く及びませんでした。

カルラエの戦いの後、ガイウス・カッシウス・ロンギヌスがシリア属州を守り抜き、パルティアの侵攻を防ぎました。カッシウスは後にカエサル暗殺の首謀者の一人となります。

クラッススの戦死は、三頭政治の崩壊を招き、ローマ内戦の遠因となりました。また、この戦いを通じて、絹がヨーロッパに伝わったことも特筆されます。生き残ったローマ兵がパルティア軍の旗を目撃したことがきっかけとなり、ヨーロッパで絹への関心が高まり、シルクロードの発展を促したのです。

カルラエの戦いは、ローマにとって屈辱的な敗北であり、その後の歴史に大きな影響を与えました。パルティアの戦術は、ローマ軍の弱点を露呈させ、その後の軍事戦略に大きな変革をもたらすことになったのです。

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