スロウ・ダウン

スロウ・ダウン：ラリー・ウィリアムズからビートルズ、そしてその先へ

1958年3月、世に送り出されたラリー・ウィリアムズの楽曲「スロウ・ダウン」。シングル盤『ディジー・ミス・リジー』のB面曲として、まずは静かにその存在感を示しました。しかし、その運命は、後に世界的な人気を誇るビートルズによって大きく変わる事となります。

録音と楽曲の魅力

1957年9月11日、カリフォルニア州ハリウッドのマスター・レコーダーズ。そこは「スロウ・ダウン」が生まれた場所です。ラリー・ウィリアムズを筆頭に、ジュエル・グラントのバリトンサックス、プラス・ジョンソンのテナーサックスが織りなすサウンドは、音楽ジャーナリストのジーン・スクラッティによって「止められない、ノン・ギミックで、叩きつけるようなピアノの音と沸き立つようなサックスで制御不能になりそうな、ウィリアムズの最もヒッピーな曲」と評されるほど、力強く、そして魅力的なものでした。このセッションに参加した面々は、ベースにテッド・ブリンソン、ドラムスにアール・パーマー、そしてギターにレナ・ホールという、当時の実力派ミュージシャン達です。

ビートルズのカバー：賛否両論の評価

ビートルズは1960年から「スロウ・ダウン」をレパートリーに加え、ライブで演奏を重ねていました。その熱演の一部は、1994年発売の『ザ・ビートルズ・ライヴ!!アット・ザ・BBC』に収録され、彼らの初期の演奏スタイルを垣間見ることができます。そして1964年、彼らは正式に「スロウ・ダウン」をスタジオ録音。ジョン・レノンのボーカル、ジョージ・ハリスンのギターソロ、そしてジョージ・マーティンによるピアノのオーバーダビングを経て、彼らの解釈による「スロウ・ダウン」が完成しました。

このカバーバージョンは、イギリスではEP『のっぽのサリー』に、アメリカではアルバム『サムシング・ニュー』とシングル『マッチ・ボックス』のB面に収録され、Billboard Hot 100で最高25位を記録するなど、商業的にも一定の成功を収めました。

しかし、音楽評論家のイアン・マクドナルドは、著書『Revolution in the Head』において、このビートルズのカバーを「ビートルズ史上最も成功しなかったロックンロール・カバーの一つ」と酷評。楽曲全体のまとまりや推進力の欠如、ギターソロの拙さ、そしてサウンドバランスの悪さなどを指摘しています。さらに、楽曲の1分14秒付近における編集ミスにも言及しています。

多くのアーティストに愛された一曲

ビートルズ以外にも多くのアーティストが「スロウ・ダウン」をカバーしています。ジェリー&ザ・ペースメイカーズ、ザ・ジャム、ラスカルズ、ピート・ベスト、ブライアン・メイといった、様々な世代、様々な音楽性のアーティスト達が、この楽曲の魅力に惹かれ、それぞれの解釈で「スロウ・ダウン」を演奏、録音しています。これらのカバーは、オリジナルの持つ普遍的な魅力を改めて証明するものと言えるでしょう。

まとめ

「スロウ・ダウン」は、ラリー・ウィリアムズによって生み出され、ビートルズによって世界に広められた楽曲です。そのシンプルな構成と力強い演奏は、時代を超えて聴く者の心を掴み、数多くのアーティストにカバーされるという、稀有な存在感を示しています。しかし、ビートルズのカバーに関しては賛否両論があることも事実です。オリジナルとカバーバージョンの違いを比較しながら聴き比べるのも、この楽曲を楽しむ一つの方法と言えるでしょう。それぞれの演奏、アレンジの違いを比較することで、より深く「スロウ・ダウン」の世界を理解できるはずです。

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