スワイダー

スワイダー：シリア南部の歴史都市

シリア南西部、ヨルダン国境に近い内陸都市スワイダーは、豊かな歴史と文化遺産を誇る街です。古くから栄えたこの地は、ナバテア王国時代にはスアダと呼ばれ、その後、ローマ帝国によってディオニシアスと改名されました。現在ではスワイダー県の中心地として、およそ87,000人の住民が暮らしており、その多くがドゥルーズ派を信仰しています。正教会信者も少数ながら存在しています。

歴史の層

スワイダーの歴史は古く、ナバテア王国にまで遡ります。紀元149年、ローマ帝国の支配下に入った際には、ワインの神ディオニューソスにちなんでディオニシアスと改名されました。この地が古くからブドウ栽培とワイン生産で知られていたことが、その理由です。ローマ帝国時代には都市としての権利を獲得し、繁栄を謳歌しました。

興味深いことに、ディオニューソス神は、ナバテア時代の神、デュシャラ神と同じ神殿で祀られていました。これは、ヘレニズム文化下における、ギリシャ神と地元の神の信仰の融合を示す典型的な例です。東ローマ帝国時代にもディオニシアスという名称は使われ続け、ガッサーン朝の影響下ではボスラ属司教の教区となりました。

遺跡から読み解く歴史

スワイダーには、ナバテア、ギリシャ、ローマ、東ローマなど、様々な時代の遺跡が残されています。特に注目すべきは、ヘレニズム文化の影響を色濃く受けたアゴラです。現在も八本の石柱が残る、ディオニューソス神とデュシャラ神の共同神殿は、古代の信仰を今に伝えています。

6世紀に遡る大きなバシリカ（教会堂）は、聖セルジウスに捧げられたと推測されています。ブドウのモチーフが刻まれたアーチが特徴的な小さな教会の廃墟、アル＝マシュナカも、当時の様子を物語っています。ローマ時代の住居跡も多く残っており、中には現在も住民が生活する家もあります。近年、アゴラの南ではローマ時代の円錐形の池やローマ劇場、アンフィテアトルムといった大規模な遺構が発見され、発掘調査が進められています。

文化と信仰の交差する地

スワイダーは、古代から続く歴史と、多様な文化が交差する街です。ナバテア王国の面影、ローマ帝国の壮大な遺跡、そしてドゥルーズ派を中心とした独自の文化が、この街に独特の雰囲気を与えています。ブドウ栽培とワイン生産という伝統産業も、この地の歴史と文化を象徴する重要な要素です。スワイダーを訪れれば、古代から現代へと続く歴史の重層と、人々の生活、そして信仰が織りなす魅力的な風景に出会うことができるでしょう。

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