スーパーフラット

スーパーフラットとは

スーパーフラットは、現代美術家である村上隆によって提唱された芸術運動および概念です。これは、日本の漫画やアニメーションから大きな影響を受けた独自の視覚表現であり、2000年から2001年にかけて開催された展覧会を通じて広く知られるようになりました。この展覧会は、日本からアメリカへと渡り、ロサンゼルス、ミネアポリス、シアトルを巡回しました。

概要

スーパーフラットという言葉は、消費文化特有の表層的な空虚感、日本の様々な時代の平面絵画、アニメーション、ポップカルチャー、ファインアート、キャラクター文化などを示すために村上隆が用いています。このアートムーブメントは、日本発でありながら、欧米市場を意識したブランド性を持つアート現象であり、ニッチ市場における販売成功例としても注目されています。

特徴

スーパーフラットの最大の特徴は、平面的で二次元的な絵画空間です。余白が多く、遠近法などの技法はあまり用いられません。これは、日本の伝統的な絵画から現代の漫画やアニメに至るまで共通する、画面の立体感のなさ、平面性、装飾性、遊戯性を示すものです。また、美術（ファインアート）と大衆芸術（ポップアート）の区別が曖昧であること、現代日本社会の階層性のなさやフラットさを表現しています。この概念は、平面作品だけでなく、アニメーション関連の立体作品（フィギュアなど）にも適用されます。

関連アーティスト

村上隆以外にも、スーパーフラットに関連した作品を発表しているアーティストが数多くいます。代表的なアーティストとしては、青島千穂、國方真秀未、奈良美智、タカノ綾、山田憲司などが挙げられます。また、アニメーション業界からも、森本晃司やスタジオ4℃、富沢ひとしなどがこのムーブメントに関わっています。

テーマと表現

スーパーフラットの作品には、ロリコンアートの風刺や、成長に対する恐怖心を表現したものも見られます。例えば、奈良美智の作品には、日本の古い浮世絵の上に子供のような落書きが施されたものがあります。また、オタク文化の根底にある願望や、第二次世界大戦後の日本文化全体の構造に注目した作品も存在します。村上隆自身は、庵野秀明などのアニメ監督や、金田伊功・板野一郎といったアニメーター、伊藤若冲などの画家から影響を受けており、これらの人物をスーパーフラットの原点と位置づけています。

コンセプトブック

村上隆は、スーパーフラットの概念をまとめたコンセプトブック『SUPER FLAT』（マドラ出版、2000年）を出版しています。この書籍は、このムーブメントを理解する上で重要な資料となっています。

展覧会

スーパーフラットをテーマにした展覧会は、国内外で複数開催されています。

SUPER FLAT展 at PARCO: 村上隆がキュレーションしたグループ展で、写真、ファインアート、漫画、アニメ、フィギュア、グラフィック、ファッション、音響など、美術の周辺ジャンルのクリエイターが集結しました。渋谷パルコギャラリー（2000年4-5月）と名古屋パルコ（2000年6月）で開催されました。
SUPER FLAT at L.A. MOCA: ロサンゼルス現代美術館別館で開催された展覧会で、パルコギャラリーでの展示を基に、北米の観客向けにコーディネートされました。その後、ミネアポリスのウォーカー・アート・センター、シアトルのヘンリーアートギャラリーを巡回しました。
Coloriage(ぬりえ)展: カルティエ・ファウンデーション（パリ）で開催された村上隆の大規模展「Kawaii Summer Vacation かわいい夏休み」の併催展示として行われたグループ展です。スーパーフラットの概念をフランスに紹介することを目的として、日本の商業コンテンツと合わせて展示されました。

アニメーション作品

スーパーフラットの概念は、アニメーション作品にも展開されています。

SUPERFLAT MONOGRAM: ルイ・ヴィトンの「モノグラム・マルチカラー」誕生を記念して制作された短編アニメーション映画で、村上隆がデザインした鮮やかなモノグラムの世界観を視覚化しています。
SUPERFLAT FIRST LOVE: ルイ・ヴィトンのモノグラム・マルチカラーコレクションの新作小物発売に合わせて制作されたアニメーションで、村上隆がプロデュースと監督を務めました。

評価と批評

批評家の浅田彰は、スーパーフラットについて、「日本の伝統美術の平面性とアニメの平面性を結びつけるのは、世界市場向けのマーケティング戦略に過ぎない」と指摘しました。さらに、「自己言及性や批評性すら平板化し、後のクールジャパンを思わせる日本文化の輸出を意図した商標にすぎない」と批判しました。一方で、塚本由晴は、スーパーフラットを「価値がないと思われている『ダメなもの』に接近するための方法論」と捉え、その背景には、自分のいる場所から資源を見つけて活用しようとする姿勢があると分析しています。また、「ある対象に対する距離感」をフラットにする方法論は、スタイルというよりもメンタルな問題であると指摘しています。

まとめ

スーパーフラットは、村上隆によって提唱された現代美術の運動であり、日本のポップカルチャー、アニメーション、伝統的な美術要素を融合させた独特の視覚表現が特徴です。その影響は、美術界だけでなく、アニメーションやファッションなど、様々な分野に及んでいます。しかし、そのマーケティング戦略や、自己批評性の欠如について、批判的な意見も存在します。スーパーフラットは、現代日本文化を理解するための重要な概念の一つと言えるでしょう。

参考文献

村上隆 (Ed.). (2003). Little Boy: The Arts of Japan’s Exploding Subculture. Japan Society.
村上隆 (Ed.). (2001). Superflat. Last Gasp.
Michael Darling (2001). “Plumbing the Depths of Superflatness”. Art Journal Vol. 60 (3), pp. 76–89.
Store A, (ed.). (1999). Takashi Murakami: the meaning of the nonsense of the meaning*. Center for Curatorial Studies Museum, Bard College.

もう一度検索