スー・グラフトン

スー・グラフトン：アルファベット・ミステリーの女王

スー・グラフトン（1940年4月24日-2017年12月28日）は、アメリカ合衆国の推理小説作家として、その名を世界に轟かせた巨匠です。弁護士で推理作家でもあったC・W・グラフトンを父に持ち、幼い頃からミステリー小説に囲まれた環境で育ちました。ケンタッキー州ルイビル大学を卒業後、カリフォルニア州で秘書や受付の職に就きながら、18歳から小説の執筆をスタート。しかし、初期の作品は出版の機会に恵まれませんでした。

その後、脚本家として活躍の場を転向し、テレビ映画の脚本を約15年間執筆。1979年には『Walking Through the Fire』の脚本でクリストファー賞を受賞するなど、高い評価を獲得します。夫スティーブン・ハンフリーとの共同でアガサ・クリスティ作品やオリジナル作品を手がけました。脚本家としての成功を収めながらも、小説家としての夢を諦めきれなかったグラフトン。離婚協議という苦悩を経る中で、その経験が創作の原動力となり、新たな執筆への決意を固めます。

ジョン・D・マクドナルドやハリー・ケメルマンといった推理小説作家、そしてエドワード・ゴーリーの絵本『ギャシュリークラムのちびっ子たち』に影響を受け、独自のシリーズ構想を練り上げます。アルファベット順にタイトルが付けられた作品群、後に「アルファベット・ノベル」として知られるようになるこのシリーズの主人公は、キンジー・ミルホーン。カリフォルニア州の架空の都市サンタ・テレサを舞台に活躍する女性私立探偵です。サンタ・テレサは、ロス・マクドナルドの作品にインスピレーションを得て創作された架空の都市であり、グラフトンはその偉大な作家への敬意を表してこの地を選びました。

キンジー・ミルホーンは、サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキーと同様に、女性探偵ブームを牽引した存在です。しかし、ウォーショースキーとは対照的なキャラクター設定がなされています。ウォーショースキーが元弁護士で、格闘技にも長けた戦闘的な女性であるのに対し、キンジーは高卒の元警官で、白人女性としては中背、気は強いものの、協調性があり、聞き込み先では掃除や洗い物を手伝うなど、周囲との良好な関係を築きながら事件解決に挑む、人間味あふれる人物像として描かれています。

シリーズ第1作『アリバイのA』は1982年に刊行。1990年には第7作『探偵のG』の出版を機に、脚本家業を引退し、小説家として専念します。シリーズは現実の時間軸とは異なる進行で、例えば第17作『獲物のQ』は2002年に刊行されましたが、作中では1987年の出来事が描かれています。近年は2年おきの発表ペースでしたが、2015年の『X』では、初めて頭文字で単語を構成するスタイルを避け、一文字タイトルとしました。

グラフトンの作品は世界28カ国で出版され、ブルガリア語やインドネシア語など、26カ国語以上に翻訳されています。映像化を望む声は多いものの、グラフトン自身は生涯、映像化を拒否し続けました。数々の賞を受賞しており、アンソニー賞、シェイマス賞、ファルコン賞、ロス・マクドナルド文学賞、英国推理作家協会カルティエ・ダガー賞、アメリカ探偵作家クラブ功労賞、アガサ賞功労賞などを受賞。アメリカ探偵作家クラブの会長も務めました。

私生活では2度の離婚を経験し、3人の子供と孫に恵まれました。20年以上連れ添った夫スティーブン・ハンフリーとの幸せな生活を送りながら、精力的に執筆活動を続けました。しかし、2017年12月28日、77歳でこの世を去りました。彼女の死は、ミステリ・ファンのみならず、世界中の人々に深い悲しみをもたらしました。スー・グラフトンの残した作品群は、これからも読者に愛され続け、多くの作家たちに影響を与え続けることでしょう。

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