ズールハーネ

ズールハーネ：イランの力の家

ズールハーネ（Zurkhaneh）は、イラン文化圏で男性たちが肉体と精神を鍛錬する伝統的な道場です。ペルシア語で「力の家」を意味するこの施設は、中央に窪んだ空間を持つ独特の建築様式が特徴です。格闘技であるコシュティーの練習場として機能する一方、精神修養の場としての役割も担っており、オスマン帝国時代のテッケに類似した側面を持っています。

歴史と起源

ズールハーネの起源は、イスラム教到来以前の古代イランに遡ると考えられていますが、正確な創始時期は不明です。現存する最古のズールハーネは、サファヴィー朝時代に建設されたバムにあると伝えられています。初期のズールハーネは、スーフィー用語で「修行場」を意味するランギャル・ガーと呼ばれ、入り口が極端に狭い地下室のような構造だったようです。ガージャール朝時代にコシュティーが宮廷で奨励されたことでズールハーネは隆盛期を迎え、現在の様式が確立されました。近代化の影響で数は減少傾向にありますが、かつてはイランの多くの街に存在し、地域住民の交流拠点としての役割も果たしていました。

建築様式と空間

ズールハーネの建築様式は、イスラム文化圏に見られる共同浴場（ハンマーム）と共通点があります。格闘場となる中央空間は、地面より少し低い位置に配置され、明り取りの天窓と腰の高さより低い位置に設けられた窓が特徴です。出入り口は低く作られており、かがまないと入れない構造になっています。この独特の空間は、修行に適した環境を作り出していると考えられます。

ズールハーネにおける修行

ズールハーネで行われる肉体鍛錬は「ヴァルゼシェ・ズールハーネイー」と呼ばれ、西洋式のスポーツとは異なる、イラン古来の伝統的な運動と位置付けられています。この修行は、単なる肉体鍛錬にとどまらず、精神的な修養も含まれており、グノーシス主義や古代イランの精神文化との関連性も指摘されています。

世界無形文化遺産登録

ズールハーネで行われる肉体鍛錬法は、「イランの肉体鍛錬法、パフレヴァーニーとズールハーネイー」として、2009年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。この登録は、イランの伝統文化の価値を世界的に認めさせた重要な出来事となりました。

類似施設

ズールハーネと類似した施設は、イラン周辺地域にも存在します。例えば、オスマン帝国領内に多く建てられたスーフィーの道場であるテッケ、アフガニスタンのハルカラス、インドのアカーラースなどが挙げられます。これらの施設の存在は、古くからこの地域で同様の格闘技や修行が行われていたことを示唆しています。

まとめ

ズールハーネは、単なる格闘技の練習場ではなく、イランの文化と歴史を象徴する重要な空間です。力と精神を鍛錬する場として、そして地域社会の交流拠点として、長きにわたってイランの人々の生活に深く関わってきました。ユネスコの世界無形文化遺産への登録は、この伝統を未来へと繋ぐための重要な一歩となるでしょう。 ズールハーネの建築、修行方法、そしてその歴史的背景を知ることは、イラン文化への理解を深める上で非常に有益です。

もう一度検索