セイジスフィヨルズル

セイジスフィヨルズル：氷の峡湾に抱かれた、芸術と歴史が息づく村

アイスランド東部に位置するセイジスフィヨルズル（Seyðisfjörður）は、その名の通り「かまどの火の峡湾」を意味し、美しい自然に囲まれた魅力的な村です。フィヨルドの奥に位置し、周囲を険しい山々に囲まれたこの地は、歴史と文化、そして豊かな自然が調和した、訪れる人々を魅了する場所です。

地理

セイジスフィヨルズルは、リングロード沿いのエイイルススタジルから約27km、山道を超えた場所に位置します。村は西にビョゥルブル（1,085m）、東にストラゥンダルティンドゥル（1,010m）という2つの山に挟まれ、その美しい景観は訪れる人々を圧倒します。村の中心部には一本の道路が走り、どこからでもフィヨルドにアクセス可能です。フィヨルドの外側には、ニシツノメドリの営巣地をはじめとする豊かな自然や、かつて教会があったヴェストダールスエイリの遺跡など、見どころが点在しています。

気候

他のアイスランドの都市と同様に、セイジスフィヨルズルも年間を通して気温の変化が比較的穏やかです。しかし、降水量は多く、レイキャビクの約2倍に達します。そのため、訪れる際には雨具の準備が必要です。

歴史

セイジスフィヨルズルは、アイスランドの中でも古い入植の歴史を持つ場所です。最初の入植者はビョゥルブルで、彼はフィヨルド全体を統治していました。ソルンナルスタジルにある教会の遺跡は、炭素年代測定により10世紀のものとされ、墓地からは8世紀の遺物も発見されています。

村の発展は、1848年にノルウェーの漁師たちが移り住んだことから始まりました。彼らが建てた木造建築は今も残っており、当時の面影を伝えています。また、ヴェストダールスエイリには、世界初の近代的な捕鯨基地が建設されました。これは、1864年にアメリカの捕鯨漁師トーマス・ウェルカム・ロイスによって建設され、1866年まで捕鯨基地と貿易拠点として機能していました。

1906年には、ヨーロッパ大陸とアイスランドを結ぶ初の海底ケーブルがセイジスフィヨルズルに敷設され、20世紀中ごろまでアイスランドの国際通信の中心地として重要な役割を果たしました。1930年には、村の中心部を流れる川にダムが建設され、初めて電力が供給されました。これにより、街灯が設置され、村の生活は大きく向上しました。

第二次世界大戦中には、イギリスとアメリカの軍事基地として利用され、現在もその名残がフィヨルド内に残っています。海底には、爆撃によって沈没した貨物船「エル・グリージョ」が沈んでおり、ダイビングスポットとして人気があります。

近年、村内の水産加工所が閉鎖されたため、経済は観光にシフトしています。しかし、現在も漁港や造船所などの重要な漁業施設が存在し、アイスランド東部における漁業の中心地としての役割も担っています。

現在のセイジスフィヨルズル

セイジスフィヨルズルは、古い木造建築や歴史的な史跡が数多く残る、魅力的な観光地です。整備されたキャンプ場、ホテル、プール、図書館、病院、郵便局、酒店など、観光客に必要な施設も充実しています。また、アート・センターや通信博物館など、文化的な施設も存在します。特筆すべきは、アイスランド東部に2つしかない映画館が、両方ともセイジスフィヨルズルにあることです。

毎年7月には、LungA芸術祭が開催され、多くのアーティストや観光客が集まります。また、ドイツの芸術家ディーター・ロスが使用していた住居とアトリエも残されており、スカフタフェットル文化センターには、ディーター・ロス・アカデミーの本拠地があります。

村内には多くの滝があり、ハイキングコースも整備されています。特に、村の中心を流れるフィヤルザルアゥ川沿いのコースは人気で、川を遡ると25もの滝を見ることができます。冬には、フィヤルザルヘイジ山中のスキー場がオープンし、スキーやスノーボードを楽しむことができます。

村から約17km東のスカゥラネースには、自然や遺跡に関する情報を提供する案内所があります。スカゥラネース近辺は自然保護区に指定されており、ハイキングや自然観察を楽しむことができます。案内所では、食料や飲料も提供しており、観光客にとって便利な施設となっています。

セイジスフィヨルズルには、デンマークのヒァツハルスやフェロー諸島のトースハウンから、スミリル・ラインのカーフェリーが定期的に運航しています。かつては、ノルウェーのベルゲンやスコットランドのスクラブスターからも運航していましたが、2009年に廃止されました。

セイジスフィヨルズルは、自然、歴史、文化が調和した、魅力的な村です。アイスランドを訪れる際には、ぜひ足を運んでみてください。

もう一度検索