セイヨウアブラナ

セイヨウアブラナ（Brassica napus）

セイヨウアブラナは、アブラナ科アブラナ属に分類される二年生の植物です。学名は Brassica napus といい、英語では rapeseed と呼ばれることが一般的ですが、近年では「rape」という単語が持つ否定的な意味合いを避けるため、「キャノーラ」品種に由来する canola という名称が広範に使われるようになっています。主に食用油や肥料の原料として、世界中で大規模に栽培されている重要な作物です。

日本には、古くから自生する在来種のアブラナ（B. rapa var. nippo-oleifera）がありますが、セイヨウアブラナはこれとは異なる種です。最も明確な違いの一つは染色体の数にあり、在来種が10対であるのに対し、セイヨウアブラナは19対を持っています。また、見た目にも違いがあり、セイヨウアブラナは葉が厚く、茎の表面に粉を吹いたような白い質感を持ちます。花も在来種より大きく（1cm以上）、萼片が斜めに立ち上がって花弁に寄り添うように咲くのが特徴です。類似種のセイヨウカラシナとは、茎を抱く葉の基部に葉柄がないことで区別できます。植物としての高さは30cmから150cm程度に成長します。

分布と特徴

セイヨウアブラナの原産地は、北ヨーロッパからシベリアの沿岸地域とされています。日本へは明治時代の初めに導入されました。早春の時期に堤防や河川敷などで見られる黄色い菜の花の多くは、セイヨウアブラナではなく、カラシナという別の植物であることが多いです。

ゲノム構成としては、ブラッシカ・ラパ（B. rapa）とヤセイカンラン（B. oleracea）という二つの異なる種のゲノムをそれぞれ2セットずつ持つ、複二倍体と呼ばれる遺伝的な特徴を持っています。

利用

セイヨウアブラナは収量が多いことから、日本国内でも油や肥料の原料として広く栽培が推奨され、油料用としては在来種のアブラナからほぼ置き換わりました。種子の色は黒色で、在来種の赤っぽい種子と区別して「黒種」と呼ばれることもあります。

食用としても利用されますが、在来種に比べて葉が硬く、成長した葉にはロウ質の白い粉が付着するため、主に芽生えたばかりの若い部分が食べられます。芯摘菜やかぶれ菜、のらぼう菜などが野菜としての利用例として知られており、知名度の高い「三重なばな」も、食用に品種改良されたセイヨウアブラナの一種です。

国内の栽培状況

日本国内でセイヨウアブラナの栽培が最も盛んなのは北海道です。特に空知地方での作付けが多く、滝川市は作付面積で日本一を誇り、近年では岩見沢市や美唄市でも栽培が増加しています。北海道に次いで栽培が多いのは青森県で、横浜町は長年にわたり滝川市と作付面積日本一の座を競ってきました。その他、秋田県や福島県でも比較的規模の大きい栽培が行われています。

2010年からは、農業者戸別所得補償制度の戦略作物に指定されたことをきっかけに、全国的な生産量が把握されるようになりました。

主な品種

日本国内で食用油向けに栽培される主な品種は、エルシン酸を含まない無エルシン酸品種です。代表的なものとして、北海道や青森県の主要品種である「キザキノナタネ」があります。福島県では「アサカノナタネ」が主に栽培されており、これは日本で初めて認定された無エルシン酸品種です。その他、「キラリボシ」（山形県）、「ななしきぶ」（滋賀県）、「キタノキラメキ」（北海道）、「ななはるか」（九州地方）、「きらきら銀河」（東北地方）などがあります。品種登録期間が終了した品種もあり、由来不明の種子を使用することによる病害発生のリスクも指摘されています。

海外での状況と関連する議論

日本が消費する菜種油の原料の大部分（99%以上）はカナダからの輸入に頼っており、国内自給率は非常に低いのが現状です。カナダでは遺伝子組み換え（GM）品種が広く栽培されており、日本の消費者や環境保護に関心のある人々の間でしばしば議論の対象となります。

アブラナ科の植物は異なる種間でも交雑しやすい性質がありますが、セイヨウアブラナと他のアブラナ科野菜との間で交雑が生じても、通常、できた植物体は稔性を持たず、組み換え遺伝子が永続的に広がる可能性は低いと考えられています。輸入されたGMセイヨウアブラナが野生化し、他のアブラナ科植物に影響を与える可能性が指摘されることもありますが、調査によれば検出される組み換え植物は輸入時にこぼれ落ちた種子からの発芽が主で、組み換え遺伝子が定着した事例は確認されていません。

一方で、カナダなどでは、GM作物の特許を持つ企業が非GM作物を栽培する農家を訴えるといった事例も発生しており、農家が意図せずGM作物の影響を受けることに関する問題提起もなされています。欧州連合（EU）の食品安全機関（EFSA）は、GMナタネのこぼれ落ちに関する科学的レビューの結果、固有の環境リスクは確認できないとする見解を示しています。また、カナダなどの農場で野生化したGMナタネは、イネ科作物栽培で使われる除草剤で根絶できるとされています。

人体への健康影響についても、組み換えナタネ由来の植物油による健康被害は報告されていません。カナダでは、組み換えキャノーラ油は健康的な食用油として広く利用されています。

変わり種の利用例として、チェルノブイリ原子力発電所事故の汚染地域であるウクライナで、放射性セシウムやストロンチウムを除去するためにセイヨウアブラナを栽培する試みが日本のNPOによって続けられています。

セイヨウアブラナは、私たちの食卓に並ぶ油だけでなく、バイオディーゼル燃料など、様々な形で私たちの生活を支えている植物です。

関連項目

菜種油 - キャノーラ油
バイオディーゼル
* 遺伝子組み換え作物

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