セイント・モード/狂信

概要

2019年に制作されたイギリスのホラー映画です。ローズ・グラス監督にとって初めての長編作品であり、主演はモーフィッド・クラークとジェニファー・イーリーが務めています。本作は、ある痛ましい出来事を経験したことでカトリックへの強い信仰を持つようになった看護師が、その信仰心が行き過ぎた狂信へと変貌していく過程と、彼女が担当する患者との間で織りなされる精神的なドラマを描き、批評家からは高い評価を得て、監督の鮮烈なデビュー作として注目されました。日本国内での劇場公開は見送られたものの、2021年10月よりデジタル配信が開始されています。

ストーリー

物語の中心人物は、過去に辛い経験をしたことで信仰に救いを求め、熱心なカトリック信者となった看護師のモード（モーフィッド・クラーク）です。彼女は、死を間近に控えた人々の魂を救済することこそ、神から与えられた自身の使命であると確信し、それまで勤務していた病院を辞め、終末期医療を行うホスピスで働き始めます。

そこでモードは、かつて著名なダンサーとして輝かしいキャリアを誇りながらも、末期の癌を宣告され療養しているアマンダ（ジェニファー・イーリー）の緩和ケアを担当することになります。気難しい性格で、自身の運命を受け入れられないアマンダに対し、モードは当初、深い同情と献身的な姿勢で接し、彼女の霊的な救いを願います。モードにとって、アマンダの魂を救うことは、自らの信仰を証明する機会であり、神への奉仕でした。

しかし、アマンダとの交流が進むにつれて、モードの抱える信仰心は徐々にその純粋さを失い、偏執的なものへと変貌していきます。彼女は自身の内に神の声を聞いたと感じ、アマンダの救済のためならば手段を選ばない過激な行動を取るようになります。アマンダの抵抗や拒絶に直面しても、モードは自身の信念に固執し、その言動はエスカレートしていきます。彼女の現実は、自身の信仰と狂気、そして孤独とがないまぜになった危険な領域へと踏み込んでいくのです。物語は、モードの精神的な崩壊と、それがもたらす周囲、特にアマンダへの影響を緊迫感あふれるタッチで描いていきます。

製作と公開

本作の企画は進められ、2018年11月には主演としてモーフィッド・クラークとジェニファー・イーリーがキャスティングされたことが報じられました。主要撮影は同月に開始されています。

完成後、本作は世界の映画祭で注目を集めました。2019年9月8日には第44回トロント国際映画祭でプレミア上映が行われ、観客や批評家から好評を得ました。これを受けて、アメリカの配給会社A24が本作の全米配給権を獲得したことが同月18日に報じられました。その後もファンタスティック・フェストやロンドン映画祭などでの上映が続き、イギリスでの配給権はスタジオカナルが取得しました。プロモーションとして、同年12月17日には最初のオフィシャル・トレイラーが、翌2020年2月には「Ash Wednesday」と題された予告編が公開されました。2020年10月にはミラン・レコーズよりサウンドトラックが発売されています。

日本国内では劇場公開は実現しませんでしたが、2021年10月6日よりデジタル配信が開始され、日本の映画ファンも本作を鑑賞できる機会を得ました。

評価

『セイント・モード/狂信』は、公開と同時に批評家から高い評価を得ました。主要な映画批評集積サイトであるRotten Tomatoesでは、181件のレビューに基づき批評家支持率93%を記録し、平均評価は10点満点中8.1点という高得点を獲得しています。同サイトの批評家の総意として、「ボディホラーとサイコスリラーの要素を見事に融合させた卓越した一作であり、『セイント・モード/狂信』によってローズ・グラス監督は疑いようのない鮮烈なデビューを飾った」と評されています。また、別の批評集積サイトであるMetacriticでも、35件のレビューに基づく加重平均値は100点満点中83点となり、「Universal acclaim（広く絶賛されている）」の評価を得ています。これらの評価は、監督の確かな演出力と、主演モーフィッド・クラークの魂を揺さぶるような演技が高く評価された結果と言えるでしょう。本作は、心理的な恐怖と身体的な苦痛描写を巧みに組み合わせ、観客に深い印象を残す作品として広く認められています。

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