セザンヌと過ごした時間

近代絵画の巨匠と文豪の知られざる物語『セザンヌと過ごした時間』

2016年、フランスで公開された映画『セザンヌと過ごした時間』（原題：Cézanne et moi）は、近代絵画の父と呼ばれるポール・セザンヌと、自然主義文学を代表するエミール・ゾラの、長く複雑な友情を描いた伝記映画です。監督はダニエル・トンプソン、主演はギヨーム・カネとギヨーム・ガリエンヌという豪華キャストが脇を固めます。セザンヌの死後110年を記念して製作された本作は、単なる伝記映画の枠を超え、友情、葛藤、そして人間の心の機微を繊細に描いた人間ドラマとして高く評価されています。

10代からの友情から絶縁、そして…

映画は、10代前半から始まったセザンヌとゾラの友情を丁寧に描きます。裕福な銀行家の息子であるセザンヌと、貧しい移民の家庭に生まれたゾラ。異なる境遇ながらも、互いの才能を認め合い、深く強い絆で結ばれていきます。しかし、二人の関係は、ゾラがセザンヌをモデルにしたとされる小説『制作』（ル・ラブール）の発表を機に、大きな転換点を迎えます。1886年の小説発表後、二人は絶縁したとされています。

監督の仮説と新たな発見

しかし、脚本を手掛けたトンプソン監督は、絶縁後も二人が密かに会っていたという仮説を立てました。そして、映画は1888年、ゾラの別荘で再会するシーンから始まります。この仮説の裏付けとなるのが、2014年に発見されたセザンヌからゾラへの書簡です。1887年に書かれたこの書簡には「君に会いに行くつもりだ」という記述があり、絶縁後も二人が交流を持っていた可能性を示唆しています。興味深いことに、この書簡の発見は、トンプソン監督が脚本を完成させた後だったとのことです。歴史的事実に基づきながらも、監督独自の解釈が加えられた、まさに「映画」ならではの展開と言えるでしょう。

豪華キャスト陣と、時代を彩る人物たち

本作は、セザンヌとゾラの関係性だけでなく、当時の芸術界の状況もリアルに描き出しています。セザンヌ役のギヨーム・ガリエンヌ、ゾラ役のギヨーム・カネをはじめ、二人の妻や両親、画商のアンブロワーズ・ヴォラール、そして、ギ・ド・モーパッサン、カミーユ・ピサロ、オーギュスト・ルノワールなど、数多くの著名な芸術家たちが登場します。それぞれのキャラクターが丁寧に描かれており、当時の芸術界の活気と、人間関係の複雑さを垣間見ることができます。

批評家の評価は？

『セザンヌと過ごした時間』は、公開当時、フランス国内外で様々な評価を受けました。アロシネによると、フランスの28メディアによる平均点は5点満点中2.4点と、やや辛口の評価が目立ちます。一方、Rotten Tomatoesでは49件のレビューのうち26件が高評価（53％）で、平均点は10点満点中5.4点と、より好意的な評価となっています。Metacriticでは、12件のレビューのうち高評価が5件、賛否両論が6件、低評価が1件で、平均点は100点満点中54点でした。評価は様々ですが、多くの批評家が本作の芸術性や、セザンヌとゾラの関係性の深さを高く評価している点は共通しています。

セザンヌとゾラの複雑な関係、そして人間の深淵

『セザンヌと過ごした時間』は、単なる伝記映画に留まらず、友情、葛藤、そして人間の心の深淵を深く掘り下げた作品です。歴史的事実に基づいたストーリー展開と、豪華キャスト陣による熱演、そして、監督の独創的な解釈が織りなす、感動的な人間ドラマとなっています。セザンヌとゾラの生涯と、二人の関係を通して、人間の複雑さや、芸術家としての苦悩、そして友情の尊さを改めて考えさせられる、そんな作品と言えるでしょう。ぜひ、この機会にご覧になってみてください。

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