セシリア・ペイン＝ガポーシュキン

セシリア・ペイン＝ガポーシュキン：天文学に革命を起こした女性科学者の生涯

セシリア・ペイン＝ガポーシュキン(1900-1979)は、20世紀を代表する天文学者の一人です。イギリスで生まれ、幼少期から旺盛な知的好奇心と研究への情熱を燃やした彼女は、数々の困難を乗り越え、天文学の歴史に大きな足跡を残しました。本稿では、彼女の波乱に満ちた生涯と、画期的な研究成果について掘り下げていきます。

生い立ちと教育

1900年、イギリスのバッキンガムシャーで生まれたセシリアは、音楽家、歴史家、弁護士である父と画家の母を持つ恵まれた環境で育ちました。しかし4歳の時に父を亡くすという不幸に見舞われます。幼い頃から植物や天文学に興味を持ち、特に植物への関心は、大叔母のドロシアの影響が大きかったようです。8歳の時、珍しい花を発見した経験は、彼女が科学者としての道を志すきっかけの一つとなりました。

その後ロンドンへ移住しますが、カトリック系のセント・メアリーズ・カレッジでは、宗教教育に偏ったカリキュラムに不満を感じ、独学で科学知識を深めていきました。第一次世界大戦の勃発や、学校側の理解不足により、17歳で学校を退学せざるを得なくなるなど、彼女を取り巻く環境は決して恵まれたものではありませんでした。

しかし、ケンブリッジ大学への強い意志を持ち、セントポールズ女子校を経て、1919年にニューナムカレッジへの入学を果たします。そこで彼女は物理学、化学、植物学を学び、アーサー・エディントンの相対性理論に関する講演に感銘を受け、天文学への関心をさらに深めます。

ケンブリッジからハーバードへ

ケンブリッジ大学では、女性という立場ゆえに多くの困難に直面しました。女性が科学分野で活躍することが容易ではなかった時代、彼女は数少ない女性科学者として、偏見と闘いながら勉学に励みました。

イギリスでは女性が研究職に就くことが難しかったため、レスリー・コムリーの助言を受け、アメリカのハーバード大学天文台へ留学。1923年、ハーロー・シャプレーのもとで研究を始めます。

博士論文と画期的な発見

ハーバード大学では、メグナード・サハの電離公式を恒星のスペクトルに応用するという独自の研究テーマを選びました。その結果、太陽などの恒星の大部分を水素とヘリウムが占めているという、当時としては画期的な結論を導き出しました。この発見は、後の天文学研究に大きな影響を与えただけでなく、彼女自身の天文学における地位を確固たるものにしたのです。

しかし、この発見は当初、多くの天文学者から懐疑的に受け止められました。特に、エディントンをはじめとする当時の権威者たちは、地球上の元素存在比と恒星のそれを同一視する考え方に固執しており、セシリアの結論は異論を唱える者も多くいました。

博士論文では、この結論を控えめに表現せざるを得ませんでしたが、後の研究で彼女の主張が正しいことが証明され、彼女の業績は高く評価されることになります。

ハーバードでの研究生活と結婚

博士号取得後も、ハーバード大学天文台に残って研究を続けました。シャプレーの助手として、変光星の研究に従事する一方、大学院生への教育にも携わっていました。

1934年、ドイツ人天文学者セルゲイ・ガポーシュキンと結婚し、セシリア・ペイン＝ガポーシュキンと名乗るようになります。結婚後も研究を続け、夫と共に銀河系の変光星の分類などに取り組みました。

教授への就任と晩年

1956年、女性として初めてハーバード大学天文学部の教授に就任。これは、ニューヨークタイムズ紙でも報道されるほどの快挙でした。その後も、学部長を務めるなど、ハーバード大学天文学科の発展に大きく貢献しました。

1979年、世界一周旅行中に体調を崩し、肺がんで死去しました。

セシリア・ペイン＝ガポーシュキンの功績

セシリア・ペイン＝ガポーシュキンの業績は、天文学の歴史における重要な転換点となりました。彼女は、女性であるというハンディキャップを乗り越え、自身の類まれな才能と努力によって、天文学に革命的な貢献を果たしました。彼女の生涯は、女性科学者のロールモデルとして、また、科学研究における情熱と粘り強さの大切さを示す象徴的なものです。

参考文献

Cecilia Payne-Gaposchkin (1996-03). Cecilia Payne-Gaposchkin: An Autobiography and Other Recollections Second Edition. Katherine Haramundanis編集. Harvard University Press. ISBN 978-0521483902
Donovan Moore (2020-03). What Stars Are Made Of: The Life of Cecilia Payne-Gaposchkin. Harvard University Press. ISBN 978-0674237377
George Greenstein (1993). “The Ladies of Observatory Hill: Annie Jump Cannon and Cecilia Payne-Gaposchkin”. The American Scholar (The Phi Beta Kappa Society) 62 (3): pp. 437-446.
その他、本文中に記載されている参考文献

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