セスナ 620

セスナ 620（Cessna 620）について

セスナ 620は、アメリカのセスナ社によって開発された4発レシプロプロペラ機であり、その設計はビジネス航空機市場をターゲットにしていました。しかし、時代の変化と市場の競争により、商業的には大きな失敗に終わりました。

開発の背景

1953年に入ると、セスナ社は単発機であるセスナ 150やセスナ 170の成功を受け、さらなる成長を目指して双発機のセスナ 310を開発しました。この後の展開では、大型ビジネス機の需要を見込み、さらに大きなモデルとしてセスナ 620の開発に着手します。特に、当時使用されていた大型機は戦争中の機体や改造機であったため、これらの機体の買い替え需要が見込まれていました。

開発では全米ビジネス航空協会（NBAA）からの市場調査をもとに、10人乗りで高い安全性を持つ機体を目指しました。そのために、4発エンジンを採用し、安全対策を強化し、また客室の快適性も重視しました。初飛行は1956年、マッコネル空軍基地で行われ、開発チームは期待を込めて飛行試験を続けました。

機体設計

セスナ 620の機体設計には、最大11人を収容できる客室が含まれていますが、トイレや荷物入れを設けることで収容人数は若干少なくなります。客室は短時間で貨物室に転換可能で、エアコンを完備し、高度7,500メートルでも快適な気圧を維持することができました。また、特殊なエアステアドアや補助動力装置も搭載され、利便性が考慮されています。

エンジンには新型のコンチネンタル GSO-520-Aが搭載され、4基のエンジンを組み合わせることで高い安全性をアピールしていました。操縦室は最新鋭の装置が整えられており、大型旅客機に匹敵する機能を持っていました。

販売活動と販売停止

開発初期のテスト飛行は成功を収めましたが、エンジンのオーバーヒートや火災報知機の誤作動などの問題が相次ぎました。それでも、セスナ社は積極的なマーケティングを展開し、前年のNBAA大会ではモックアップ展示やプロモーション映画の制作に至るなど、期待を高めていました。

しかし、販売実績は一機も得られず、他社の中古機が安価で流通する中、セスナ 620の価格は当初の予想を大きく上回ることが明らかになりました。また、ビジネスジェットの需要が高まる中で、レシプロ機であるセスナ 620は次第に市場での立場を失っていきました。

最終的に、1957年10月14日、セスナ社は急遽開発中止を決定します。開発にかけた製造費は720万ドルにも及びましたが、受注ゼロという結果を受け、社内では従業員に配置転換や契約解除の措置が取られました。

評価と結果

セスナ 620は高性能な機体でありながら、需要に恵まれなかったため、セスナ社はそれ以降、4発プロペラ機の開発を行わなくなりました。航空評論家からは、「問われなかった質問への答え」や「悲運の名機」と評され、セスナ社の歴史において特異な位置を占める存在となりました。

性能諸元

• - 乗員: 2名
• - 乗客数: 10~11名または6~8名（設置内容による）
• - 最大離陸重量: 6,124kg
• - 全長: 16.8m
• - 全幅: 13.6m
• - エンジン: コンチネンタル GSO-520-A（350馬力）× 4基
• - 最大速度: 454 km/h
• - 巡航速度: 418 km/h
• - 航続距離: 2,716 km
• - 実用上昇限度: 7,620 m

セスナ 620の物語は、希望と失望が交錯するものであり、航空業界における競争の厳しさを物語る一例でもあります。

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