セラフィムのいる栄光の聖母子

『セラフィムのいる栄光の聖母子』は、盛期ルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェッリが1469年から1470年頃に制作したテンペラ画です。この作品は、ボッティチェッリの初期の聖母子画の一つであり、『バラ園の聖母』とともに、師であるフィリッポ・リッピと、新たに影響を受けたアンドレア・デル・ヴェロッキオの影響が色濃く表れています。現在は、フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

作品の特徴

ボッティチェッリは、天空の中ほどに聖母マリアを描いています。聖母は中空に座り、膝の上にふくよかな幼児イエス・キリストを抱いています。周囲はマンドルラ状に並んだ多くのセラフィムに囲まれ、背後からは黄金色の光が差し込んでいます。幼児キリストは、その幼いながらも神聖な存在であることを自覚しており、鑑賞者に対してメランコリックな表情を浮かべつつ、祝福を与えるポーズをとっています。

この作品と同時期に制作された『バラ園の聖母』は、構図がよく似ており、フィリッポ・リッピの影響から変化したボッティチェッリの作風をよく示しているため、しばしば一緒に取り上げられます。

聖母の描写は非常に自然主義的で、立体感が強く、明暗の表現によって解剖学的な構造が明確に見て取れます。しかし、本作品は、後から描かれた『バラ園の聖母』と比較すると、背景の金色の光のせいか、より平面的な印象を与えます。18世紀から19世紀にかけてのウフィツィ美術館の目録では、作者不明として記載されていましたが、1893年に美術史家ヴィルヘルム・フォン・ボーデによってボッティチェッリの作品であると特定されました。この帰属は、アドルフォ・ヴェントゥーリを除くほぼすべての研究者に受け入れられています。

この作品は、フィリッポ・リッピやアンドレア・デル・ヴェロッキオの作品に近く、ボッティチェッリの代表作の一つである『剛毅』と、画面の形状や様式がよく似ていることから、制作時期は『剛毅』の直前の1469年から1470年頃と考えられています。オリジナルの額縁が現存しており、絵画を囲む帯状装飾の赤い部分には、金貨のような円形の紋章がびっしりと描かれています。

来歴

作品の発注主や制作経緯については、詳細は不明です。ウフィツィ美術館の目録に記載されているものの、それ以前の来歴ははっきりしていません。しかし、額縁に描かれた円形の紋章が、フィレンツェの両替商組合を連想させることから、美術史家アレッサンドロ・チェッキは、この作品が同組合のために制作されたのではないかと推測しています。

関連作品

『バラ園の聖母』：同じくボッティチェッリ初期の聖母子画で、本作品と比較されることが多い作品です。
『剛毅』：ボッティチェッリの初期の代表作の一つで、画面の形状や様式において本作品と類似点が見られます。

まとめ

『セラフィムのいる栄光の聖母子』は、ボッティチェッリの初期の作風を知る上で重要な作品であり、彼の師であるフィリッポ・リッピと、新たな影響を受けたアンドレア・デル・ヴェロッキオの影響がどのように融合したかを示す上で重要な作品です。聖母子の描写の自然さ、明暗の表現、そして背後のセラフィムと光の表現が、ルネサンス美術の発展を語る上で欠かせない作品となっています。


ウフィツィ美術館公式サイト, サンドロ・ボッティチェッリ『聖母子』

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