セルゲイ・ウヴァーロフ

セルゲイ・セミョーノヴィチ・ウヴァーロフ（1786年～1855年）は、19世紀ロシアにおける重要な文化的、政治的影響力を持った人物です。古典学者として高い評価を受け、教育大臣としての活動、そしてロシア科学アカデミー会長としての役割を通じて、ロシアの知的・文化的発展に多大な貢献を果たしました。

ウヴァーロフはモスクワに生まれ、権力者ラズモフスキー家との縁戚関係を通じて、帝室にも近い立場を得ました。古代ギリシャ文学や考古学に関する深い知識と造詣をもち、数々の著作を発表しヨーロッパでもその名を知らしめました。ゲーテやフンボルトといった当時の著名な知識人たちとも交流を持ち、広範な人脈を築きました。

学術研究に打ち込む一方で、ウヴァーロフは政治の世界でも活躍します。1832年、教育副大臣に就任、翌年には教育大臣に昇格。1849年までその職に就き、ロシアの教育制度改革に大きく関わりました。当時皇帝ニコライ1世が推進した「正教会・専制・国民性」というイデオロギーを支持する立場から、教育政策を進めました。

ウヴァーロフの教育政策は、上流階級出身者中心の教育システムを維持するという保守的な一面を持っていました。大学における庶民階級の進学制限や、政府による大学・高校への統制強化といった強権的な措置も講じました。「大学にプガチョフはいない」という言葉は、その思想をよく表しています。しかし、同時に海外への優秀な科学者の派遣再開など、教育の質向上にも努めた側面も見られます。

1811年にはロシア科学アカデミー会員に選出され、1818年からはアカデミー会長としてその発展に尽力しました。ウヴァーロフは鉱物収集家としても知られ、彼の名前は灰クロム柘榴石（ウヴァロヴァイト）という鉱物にも冠されています。

私生活においては、アレクセイ・ラズモフスキー伯爵の娘と結婚し、1男3女をもうけました。彼の息子アレクセイ・ウヴァーロフは、ロシア考古学会やロシア国立歴史博物館の創設にも携わっています。ウヴァーロフ家のコレクションは、ロシア革命後、ソ連当局によって没収・分割され、現在に至っています。

ウヴァーロフの著作には、古代ギリシャの神秘儀礼に関する論文『エレウシスの神秘に関する小論 (Essay on the Mysteries of Eleusis)』や、アジア研究のためのアカデミー設立計画を記した『アジアアカデミー計画 (Projet d'une Académie Asiatique)』などがあります。これらの著作は、彼の学問的業績の幅広さと深さを示すものです。

セルゲイ・セミョーノヴィチ・ウヴァーロフは、学問と政治の両面で活躍した稀有な存在でした。保守的な思想を持ちながらも、教育改革への尽力や科学の発展への貢献は、ロシアの歴史に大きな足跡を残しています。彼の複雑な人物像は、19世紀ロシアの社会構造や知的動向を理解する上で重要な手がかりとなります。

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