セルゲイ・キーロフ

セルゲイ・ミローノヴィチ・キーロフ：謎に包まれた革命家の生涯と暗殺事件

セルゲイ・ミローノヴィチ・キーロフ（1886年3月27日 - 1934年12月1日）は、ソビエト連邦の革命家であり政治家です。本姓はコーストリコフ。彼は、その劇的な死によって、ソ連史に大きな影響を与えました。

生い立ちと革命運動

キーロフは、ロシア帝国ヴャトカ県ウルジュームで生まれました。早くに両親を亡くし孤児院で育ちます。カザン工業学校を卒業後、シベリアやカフカースで革命運動に参加し、1914年には北カフカースでボリシェヴィキの組織責任者となりました。

1919年にはアストラハン軍事革命委員会議長に就任。1920年から1922年にかけては、ザカフカース各地で革命政権を樹立し、同地の赤化統一に関与しました。1923年にはロシア共産党中央委員に選出されています。

レニングラードの指導者として

1926年、キーロフはグリゴリー・ジノヴィエフの拠点であったレニングラードに州委員会第一書記として着任し、ジノヴィエフ派を一掃しました。1930年には政治局員に昇進。1930年代の農業集団化では、クラーク弾圧に力をふるい、スターリンと並ぶ有力な指導者と見なされるようになります。1934年2月には、党中央委員会書記・組織局員を兼務しました。

スターリンとの関係

しかし、1932年以降、キーロフとスターリンの間には徐々に確執が生じていたと言われています。党内反対派に対する処遇や、レニングラードにおける配給制度といった実務上の問題で対立がありました。また、1934年の第十七回党大会では、一部の代議員からスターリンを書記長の職から解任し、キーロフを後任に推す動きがありました。キーロフ自身はこの提案を拒否しましたが、スターリンにとってキーロフは、自身の権力基盤を揺るがしかねない存在となっていたのです。

突然の暗殺

1934年12月1日、キーロフはレニングラード党本部（旧スモーリヌイ学院）で、レオニード・ニコラエフによって暗殺されました。ニコラエフは、元農民監察部職員で、職場でのトラブルから公職を追われた人物でした。彼はキーロフを待ち伏せし、背後から拳銃で首を撃ちました。

事件後、ニコラエフは逮捕されましたが、不可解な点が多く残りました。ニコラエフは以前からキーロフの周辺をうろつき逮捕されていたにもかかわらず、なぜか釈放されていたのです。また、暗殺当日、建物内の警備体制も手薄でした。これらのことから、ゲンリフ・ヤゴーダを筆頭とする内務人民委員部、さらにはスターリン自身が暗殺に関与していたのではないかという疑惑が浮上しました。

暗殺後の混乱と大粛清

キーロフ暗殺事件は、スターリンによる大粛清の引き金となりました。スターリンは、キーロフ暗殺の背後に大規模な陰謀が存在すると主張し、反対派に対する弾圧を強化していきました。グリゴリー・ジノヴィエフやレフ・カーメネフといった古参ボリシェビキも事件に連座させられ、処刑されました。

スターリンの死後、ニキータ・フルシチョフによるスターリン批判を機に、事件の再調査が行われましたが、真相は依然として謎に包まれています。フルシチョフは、スターリンがヤゴーダを介してニコラエフにキーロフを殺害させたとの見解を示唆しましたが、ソ連崩壊後に公開された機密資料からも、スターリンの直接的な関与を示す証拠は見つかっていません。

死後の影響

キーロフの死後、彼の故郷ヴャトカはキーロフと改名されました。また、ジノヴィエフの故郷ジノーヴィエフスクはキーロフにちなんでキーロヴォと改称されています。現在でも、キーロフバレエ団やキーロフ級ミサイル巡洋艦など、彼の名を冠したものが存在しています。

セルゲイ・ミローノヴィチ・キーロフの生涯は、ソビエト連邦の激動の時代を象徴するものであり、彼の暗殺事件は、その後の大粛清へと繋がる重要な出来事でした。事件の真相は未だに謎に包まれていますが、彼の名は歴史に深く刻まれています。

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