セルゲイ・ブルガーコフ

セルゲイ・ブルガーコフ（Sergei Nikolaevich Bulgakov, 1871年7月16日 - 1944年7月12日）は、ロシア正教の神学者、司祭（後に長司祭）、哲学者、経済学者として知られています。彼の生涯は、思想的な転換と、激動の時代を生き抜いた信仰者の姿を映し出しています。

生涯

ブルガーコフは、オリョール県リーヴヌィで在俗司祭の息子として生まれました。当初は神学を学んでいましたが、一時中断し、30歳頃まで無神論者でした。1894年にモスクワ大学法学部を卒業後、1902年から1907年までキエフ高等工業学校の助教授、1903年から1909年までキエフ大学の教授、1909年から1911年にはモスクワ大学で政治経済学の教授を務めました。

この時期、ブルガーコフはソロヴィヨフやフロレンスキイの影響を受け、思想的に大きな転換を経験します。当初はマルクス主義に傾倒していましたが、ドイツ観念論を経て、最終的には正教信仰へと回帰しました。1917年6月にはロシア正教会の輔祭に叙聖され、ロシア正教会全国公会の代議員に選出されます。しかし、1918年には聖職者であるという理由からモスクワ大学教授の職を追われることになりました。1923年にプラハへ亡命し、翌年にはパリへ移住。その後はパリの聖セルギイ正教神学院で定理神学（教義神学）の教授として教鞭をとり、正教の長司祭として活動しました。1944年、パリで生涯を終えました。

思想

ブルガーコフの思想は、その生涯における様々な転換を反映しています。1890年代には、ピョートル・ストルーヴェやミハイル・トゥガン＝バラノフスキーと共に「合法マルクス主義者」として活動していました。しかし、1901年にはマルクス主義の教義を大幅に修正し、マルクス主義が無神論であるため生活の意味や精神活動の価値について教えることができないと批判しました。

1905年のロシア第一革命におけるインテリゲンツィアへの幻滅は、ブルガーコフを決定的にマルクス主義から離れさせました。彼は、ドストエフスキーやウラジーミル・ソロヴィヨフ、パーヴェル・フロレンスキイなどの影響を受け、宗教問題の重要性を強調するようになります。特に、ロシアの革命政党に特有なヒロイズムは、不寛容と民衆に対する独裁の原因となると指摘し、その危険性を警告しました。

ブルガーコフの主要著作

『資本主義生産における市場　О рынках при капиталистическом производстве』（1896年）
『農業の進歩について　К вопросу об эволюции земледелия』（1899年）
『資本主義と農業　Капитализм и земледелие』（1900年）
『マルクス主義から観念論へ　От марксизма к идеализму』（1903年）
『ヒロイズムと苦行　Героизм и подвижничество』（1909年）
『経済哲学　Философия Хозяйства』（1912年）
『黄昏れざる光　Свет Невечерний』（1917年）
『神々の饗宴にて　НА ПИРУ БОГОВ』（1918年）
『二人の使徒　Свв. Петр и Иоанн. Два первоапостола』（1926年）
『神の子羊　Агнце Божием』（1933年）
『慰めるもの　Утешителе』（1936年）
『子羊の花嫁　Невесте Агнца』（1945年）

参考文献

パーヴェル・エフドキーモフ著/ 古谷功訳『ロシア思想におけるキリスト』（あかし書房、1983年12月15日 第1刷） ISBN 4870138093
『道標　ロシア革命批判論文集・１』（現代企画社、1991年）
『深き淵より　ロシア革命批判論文集・２』（現代企画社、1991年）
N・ヴァレンチノフ『知られざるレーニン』（風媒社、1972年）

ブルガーコフの生涯と著作は、その複雑で多面的な思想を理解する上で重要な手がかりとなります。彼の思想は、現代においても重要な示唆を与え続けています。

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