ピョートル・ストルーヴェ

ピョートル・ベルンガルドヴィチ・ストルーヴェ：マルクス主義から自由主義へ至る思想と生涯

ピョートル・ベルンガルドヴィチ・ストルーヴェ (1870-1944) は、ロシア帝国における重要な政治家、経済学者、そして哲学者でした。知事の息子として生まれ、裕福な家庭環境で育ちました。彼はペテルブルク大学で法学を学び、1895年に卒業しています。ストルーヴェの生涯は、マルクス主義への傾倒から始まり、やがて自由主義への転向という劇的な思想的変容を遂げるものでした。

初期のマルクス主義活動： ストルーヴェは1880年代後半からヴェーラ・ザスーリチらを通じマルクス主義思想に触れ、深く関心を抱きました。1894年に発表した『ロシアの経済発展問題に対する批判的覚書』は、ナロードニキ（民衆主義者）を批判し、マルクス主義的な視点からロシアの経済発展を分析したものでした。この著作は、ヴィクトル・チェルノフなどの社会革命党員にも影響を与え、ロシアにおけるマルクス主義の普及に大きな役割を果たしました。同年、彼はウラジーミル・レーニンと出会い、親交を深めました。1898年には、ロシア社会民主労働党の結成会議に参加し、会議解散後の宣言起草にも携わっています。

合法マルクス主義者としての活動： ストルーヴェは「合法マルクス主義者」として知られ、『ノーヴォエ・スローヴォ』誌の編集長を務め、『ナチャーロ』や『ジーズニ』誌にも寄稿しました。また、『イスクラ』誌にも初期の段階で参加しています。しかし、ヨーロッパで修正主義論争が激化するにつれ、党内主流派との距離を置くようになりました。

自由主義への転向と政治活動： ミハイル・トゥガン＝バラノフスキーらとともにロシア自由経済協会に参加するなど、ストルーヴェは次第に自由主義的な立場へと傾斜していきました。1902年には『解放』誌を創刊し、1904年には同誌を基盤に、後の政界で重要な役割を果たすことになる改革派「解放連合」を結成しました。これは1905年の立憲民主党（カデット）結成の礎となりました。立憲民主党結成後も中央委員として関与し、中道右派的な立場から、左翼の思想や戦略を批判しました。1915年にはロシア帝国産業省で貿易統制の特別委員会委員長に就任しています。

ロシア革命後と亡命： 1917年のロシア革命後、ストルーヴェはアントーン・デニーキンやピョートル・ヴラーンゲリ率いる反ボルシェヴィキ派政府で閣僚を務めました。しかし、内戦終結後には国外に脱出し、パリで亡くなりました。

思想と性格： ストルーヴェはナロードニキのテロリズムや農民中心主義を批判し、資本主義的工業化によるロシアの社会進歩を主張しました。彼は、農民や労働者主導の革命は何ももたらさないと信じており、1905年のペテルブルクのデモについて「ロシアには革命的な民衆は存在しない」と発言し、トロツキーらから批判されました。同年発表された十月詔書を擁護するなど、革命的な動きに反対する立場をとっていました。

彼の論文「インテリゲンツィアと革命」では、国家原理や民族原理に反する社会改革や運動は失敗に終わると論じ、反国家・反民族的な思想は幻想に過ぎないと主張しました。また、19世紀半ばに形成されたロシアのインテリゲンツィアを、反国家・反宗教的な特異な存在として位置づけ、従来の教養人像とは異なる存在であると指摘しました。

ストルーヴェはマルクス主義者として出発しながらも、自由主義へと転向し、ロシアの政治・経済・社会に多大な影響を与えた人物でした。彼の思想的変遷は、当時のロシアの複雑な社会情勢を反映しており、その生涯はロシア史を理解する上で重要な鍵となるものです。彼の複雑な思想と政治的立場は、現代においても様々な議論を巻き起こし続けています。彼の人物像と思想は、ロシア革命前後期の激動の時代を理解する上で欠かせない要素です。

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