セルディンガー法

セルディンガー法（セルディンガー・ワイヤー法）

セルディンガー法は、スウェーデンの放射線科医スヴェン・イヴァー・セルディンガー（Sven-Ivar Seldinger, 1921-1998）が1953年に開発した、医療器具を体内の血管やその他の管腔臓器へ安全に導入するための手技です。この技術は彼の名にちなんで名づけられ、「セルディンガー・ワイヤー法」とも呼ばれます。

従来法との比較と優位性

セルディンガー法が確立される以前は、カテーテルを体内に留置する際、臓器を穿刺した針の内部に直接カテーテルを通す方法が主流でした。この方法では、カテーテルの太さが穿刺に用いる針の太さを超えることができず、使用できる医療器具のサイズに制約がありました。

これに対し、セルディンガー法では、まず細い針で目的部位を穿刺し、その針を通して「ガイドワイヤー」と呼ばれる柔軟な細い針金を挿入します。その後、針だけを抜き取り、血管や管腔臓器内に残ったガイドワイヤーに沿わせる形で、より太いカテーテルやその他の機器を挿入することが可能になりました。この革新的なアプローチにより、従来法では難しかった、穿刺径よりも大きな機器の留置が容易になったのです。

なお、多くの文献で臓器の前壁と後壁を両方貫通する手技として紹介されることがありますが、セルディンガー医師による最初の報告では後壁貫通の手技は含まれていませんでした。

手技の概要と構成要素

セルディンガー法の基本的な流れは以下の通りです。

1. 目的の血管や管腔臓器を、先端が鋭利な中空の針で穿刺します。必要に応じて超音波ガイドを使用することがあります。
2. 針の内部を通して、先端が丸くなった柔軟なガイドワイヤーを目的の腔内に挿入します。
3. ガイドワイヤーを腔内に残したまま、穿刺に用いた針のみを引き抜きます。
4. ガイドワイヤーに沿わせて、目的とするカテーテルやチューブ、あるいは「シース（鞘）」と呼ばれる太くて短いカテーテルを挿入します。
5. 医療機器の留置が完了したら、ガイドワイヤーを引き抜きます。

ダイレーター（拡張器）

ガイドワイヤーに沿わせて挿入するカテーテルの多くは柔らかいため、単独で組織を押し分けて進むのが困難な場合があります。このため、カテーテル挿入に先立ち、「ダイレーター」という先端が鈍の硬質プラスチック製カテーテルをガイドワイヤーに沿わせて挿入し、皮膚から目的臓器に至る組織を拡張し、後続の機器がスムーズに通過できる通り道を形成することがあります。

カテーテルとシース

ダイレーターを抜去した後、ガイドワイヤーに沿って目的のカテーテルやチューブを留置します。特に太径で、他のカテーテルなどを挿入するための入り口として機能するものは「シース（鞘）」、あるいは「イントロデューサーシース」と呼ばれます。シースを挿入する際には、ダイレーターとガイドワイヤーを同時に引き抜いてからシースを留置する場合もあります。

留置されたシースを通して、血管形成術や塞栓術、生検などの介入的処置に必要な他のカテーテルやデバイスを挿入することができます。これらの処置では、カテーテルの位置確認や誘導のために透視（X線画像）が用いられたり、臓器の可視化のためにX線造影剤が注入されたりすることがあります。

手技完了後

目的の処置が完了したら、留置したシースやカテーテルを抜去します。穿刺によってできた穴は、自然に閉じるのを待つ場合や、専用の閉鎖器材を用いて積極的に塞ぐ場合があります。

変法

穿刺針、ガイドワイヤー、ダイレーター、シースを一体化した器具を用いて一回の操作で挿入するセルディンガー変法も存在します。

適応例

セルディンガー法は、その安全性と簡便さから、現代医療において非常に幅広い分野で利用されています。

血管造影検査
胸腔ドレーン、腹腔ドレーンなどのドレナージチューブ挿入
中心静脈カテーテルの挿入
プッシュ法による経皮的胃瘻（PEG）チューブの挿入
心臓ペースメーカーや植込み型除細動器のリード線挿入
その他多くの画像下治療（IVR: Interventional Radiology）手技

合併症

セルディンガー法は比較的安全な手技ですが、全くリスクがないわけではありません。最初の穿刺に用いる鋭利な針によって、出血や意図しない臓器への穿孔を引き起こす可能性があります。また、器具を体内に挿入するため、感染のリスクも伴います。感染予防のため、手技は厳格な無菌操作で行われます。

まれではありますが、挿入したガイドワイヤーが目的の腔内や血管内に迷入・脱落する合併症も報告されています。これは重大な状況を招く可能性がありますが、手技中の適切な注意により多くの場合予防可能です。

歴史的意義

セルディンガー法が開発される以前に用いられていた鋭利なトロッカーによる穿刺手技は、合併症の発生率が高いという課題がありました。セルディンガー法の登場は、血管へのアクセスをより安全かつ容易にし、血管造影検査を比較的リスクの低い手技へと変えました。これは、カテーテルやガイドワイヤーを用いて診断や治療を行う「画像下治療（IVR）」という新たな医療分野の発展に大きく貢献しました。

また、セルディンガー医師の研究は、チャールズ・ドッターやアンドレアス・グリューンツィヒによる血管形成術（バルーンカテーテルを用いた血管拡張術）の開発にも影響を与え、その基礎となりました。セルディンガー法は、今日のカテーテルを用いた医療の基盤を築いた、画期的な技術と言えます。

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