セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ

セントジョンズ・ウォータードッグ：ラブラドールレトリバーの祖先、そして生還の物語

セントジョンズ・ウォータードッグ、別名セントジョンズ・レトリーバー、あるいはレッサー・セントジョンズ・ドッグは、カナダ・ニューファンドランド島セントジョンズ原産の大型レトリーバーです。その名は、小型犬を指すのではなく、同地域原産のニューファンドランド犬と比較してやや小型であることに由来します。

本種は、ラブラドールレトリバーの祖先として知られています。カナダへの移民増加期に、ウォータードッグタイプの犬とニューファンドランド犬の交配から誕生しました。厳しい寒さの中でも活躍できる丈夫な体格と温和な気質は、猟師や漁師にとって貴重な存在でした。

優れた能力を持つレトリーバーを目指した改良計画の一環として、数頭がイギリスへ輸出され、そこで改良が進められ、ラブラドールレトリバーが誕生しました。しかし、皮肉にもこの改良がセントジョンズ・ウォータードッグの衰退を招きました。イギリスで改良されたラブラドールレトリバーがカナダに逆輸入されると、セントジョンズ・ウォータードッグは次第にその地位を奪われ、さらに無秩序な交配による雑種化も進み、純血種の数は激減、絶滅寸前に陥りました。

多くの専門家は、セントジョンズ・ウォータードッグは既に絶滅したと結論付けていました。しかし、1980年代、カナダの辺境地で数頭の純血種が発見され、希望の光が灯りました。現在も、少数のブリーダーによる地道な保護活動が続けられており、その数は着実に増加しつつありますが、いまだ希少な犬種です。カナダ国外では、その存在を知らない人も多いでしょう。

セントジョンズ・ウォータードッグの特徴

子孫であるラブラドールレトリバーと比較すると、セントジョンズ・ウォータードッグはがっしりとした体格で、容姿も大きく異なります。幅広い頭部、やや短いマズル、太い首、平らな背、そして長い胴体が特徴です。垂れ耳、サーベル状の垂れ尾には飾り毛があり、指にはラブラドールレトリバーよりも長く丈夫な水かきがあります。ショートコートは二重構造で、優れた防寒性と防水性を備えています。毛色はブラック一色ですが、胸元に白い斑点が入ることもあります。体重は54～77kgにも及ぶ大型犬です。

性格は穏やかで、攻撃性はなく、子供にも優しいとされています。水泳を得意とし、リトリービング（回収作業）では獲物を傷つけないよう、そっとくわえる「ソフトマウス」の技術を持っています。

原産国をめぐる論争

セントジョンズ・ウォータードッグの原産国は、一般的にはカナダとされています。しかし、歴史的には原産国の定義が曖昧だった時期もあり、カナダ、イギリス、フランスのいずれが原産国であるかについて論争が巻き起こった時期もありました。

カナダを原産国とする説は、作出がカナダで行われたという事実が根拠です。イギリスを原産国とする説は、子孫であるラブラドールレトリバーがイギリスで作出されたため、その祖先もイギリス原産とするべきだという主張に基づいています。フランスを原産国とする説は、かつてセントジョンズがフランス領だったという歴史的事実に基づいています。

最終的には、作出地を原産国とするという規定が明確化され、カナダが原産国として正式に決定されました。これは、セントジョンズ・ウォータードッグの作出が完全にカナダ国内で行われ、他国からの干渉が一切なかったためです。

参考文献

デズモンド・モリス：著、福山英也、大木卓：訳『デズモンド・モリスの犬種事典』（ISBN 978-4416707296）誠文堂新光社：刊　2007年

関連項目

犬の品種一覧
ツイード・ウォーター・スパニエル（ゴールデンレトリバーの先祖）
* イングリッシュ・ウォーター・スパニエル（カーリーコーテッドレトリバーの先祖）

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