ゼニット (カメラ)

ゼニット：旧ソ連が生んだカメラブランドの歴史

ゼニット（Zenit）は、1952年からロシア（旧ソ連）のKMZとベラルーシのBelOMOで製造されたカメラブランドです。1960年代から1970年代にかけて74カ国に輸出され、世界中で知られるようになりました。現在、ブランドはKMZの後身であるKrasnogorsky Zavod社が保有しています。

黎明期：Zorkiをベースにした一眼レフの誕生

初代ゼニットは、レンジファインダーカメラのZorki（ライカII型のコピー）をベースに開発されました。一眼レフ化するにあたり、レンジファインダー機構を取り外し、代わりにフォーカシングスクリーンとプリズムを設置。手動レバー式のミラーを追加し、M39ねじ込みマウントのフランジバックを延長することで、ミラーの作動空間を確保しました。この簡素な設計が初期モデルの特徴です。

ゼニット-Sでは、ミラー機構がレバー式からプーリー式に変更されました。初期のゼニットシリーズは、Zorkiシリーズと並行して開発され、ゼニット-SはZorki-Sと、ゼニット-3MはZorki-6と兄弟機のような関係でした。

ゼニット-Eとその後の展開：量産化とM42マウントへの移行

1967年から1969年にかけて、KMZは自動ダイキャスト成形ラインを導入し、カメラの量産体制を確立しました。この時期にM39マウントからM42（プラクチカ）マウントに切り替え、クイックリターンミラーも開発されました。これにより、同社で最も有名なゼニット-Eシリーズが誕生しました。

ゼニット-Eは、単体で300万台、バリエーションを含めると1200万台以上が生産されました。「防爆カメラ」と渾名されるほど頑丈で、シンプルな構造から「壊れようがない」と評されました。ゼニット-EMが登場するまで自動絞り機能は搭載されていませんでしたが、同機種ではシャッターボタンと絞り機構を直接連結したため、シャッターボタンが非常に重くなりました。

ゼニット-Eとゼニット-BはM39とM42両方のマウントを採用していましたが、その後のモデルはM42マウントのみとなり、最終期にはペンタックスKマウントを採用しました。

20世紀末には、ゼニット-Eのダイキャストシャシーがエントリーモデルのベースとして使われ続けたことが、より現代的なカメラ開発の障害となりました。

ゼニット-Eシリーズの主な改良点は以下の通りです。

自動絞りの導入（ゼニット-EM）
独立式セレン露出計からTTL測光への変更
ペンタックスKマウントの採用（ゼニット-122K）
手動ISOスイッチの廃止とDXコードの導入（ゼニット-412DX）

また、1980年モスクワオリンピック記念モデルも存在します。

高級カメラへの試み：START、ゼニット-4、ゼニット-7、ゼニット-D

1958年、KMZはプロ用高級カメラとしてSTARTを開発しました。1秒から1/1000秒のシャッター速度、自動絞り式の専用マウントレンズ、内蔵ナイフなどの機能を備えていましたが、専用マウントのためレンズの選択肢が少なかったのが欠点でした。

1964年には、ツァイス・イコンのコンタフレックスに触発され、ゼニット-4、ゼニット-5、ゼニット-6が開発されました。これらのモデルは、レンズシャッターとVoigtländer Bessamaticに似たマウントを採用していました。しかし、耐久性と製造コストの問題から、従来のゼニットの設計思想とは異なり、失敗に終わりました。それでもゼニット-5はソ連初のモータードライブ一眼レフカメラとなり、ゼニット-6はソ連初のズームレンズを搭載しました。

その後、布幕シャッターを採用した高級カメラの開発がさらに2度試みられました。ゼニット-7（1968年）とゼニット-D（1969年）です。ゼニット-Dは自動露出モードと1/125秒のシンクロを備えていましたが、シャッターの複雑さと信頼性の低さから、それぞれ独自のバヨネットマウントで標準レンズのみが生産されました。特にゼニットDは、63台しか製造されなかった希少なモデルです。

これらの後、ゼニット16が少数生産されましたが不調に終わり、1979年にゼニット19が登場。ゼニット19は、オリジナルの電子式フォーカルプレーンシャッター、M42マウント、TTL露出計などを備えており、ソ連製のM42マウントカメラの最高級機種と評されています。

ペンタックスKマウントカメラ：ゼニット・オートマットからゼニット-KMへ

1984年には、ペンタックスKマウントと絞り優先の横走り布幕フォーカルプレーンシャッターを備えたゼニット・オートマットが生産されました。1988年には縦走り金属幕シャッターFZL-84を使用するゼニットAMに改造されました。セルフタイマーを持たないAMの廉価版としてゼニットAM 2も生産されました。

次に開発されたゼニット-APKでは、絞り優先モードに加えマニュアル露出モードが導入され、シャッターもコパルスクエアのライセンス生産品に変更されました。

最新モデルは2001年に発売されたゼニット-KMで、2機種目のマイコン制御カメラであり、KMZが製造した2機種目のモータードライブ一眼レフカメラでした。2004年にゼニット-KMプラスと改名され、2005年にクラスノゴルスク工場での一眼レフカメラの生産が中止され、ゼニット-KMプラスが最後のカメラとなりました。

キットレンズ：IndustarとHelios

初代ゼニットには、Zeiss Tessarのコピーである「Industar」レンズが付属していました。初期のアルミ鏡筒型はコーティングが施されていましたが、大量生産された黒鏡筒版はコーティングが不十分でした。Industarレンズは、絞りリングがフォーカスリングの内側にあるため、絞り開放でフォーカスを合わせた後に絞り込むことができず、絞り変更によってフォーカスシフトも発生しました。そのコンパクトさが特徴です。

ゼニット用レンズとして著名なのは、Zeiss Biotarのコピーである58mm F2.0「Helios」です。また、Tair銘のレンズも様々な焦点距離で製造されました。

製品一覧：初期モデルからデジタルカメラまで

ゼニットは、数多くのモデルを製造しました。以下に主なモデルを列挙します。

初期製品

ボトムプレート式
ゼニット-
ゼニット-S
ゼニット-3
背面ヒンジ式
Kristall/Crystal
ゼニット-3M
ゼニット-4シリーズ
ゼニット-4
ゼニット-5
ゼニット-6
ゼニット-DKLマウントレンズ
Mir-1Ц 37mm f2.8
Vega-3 50mm f2.8
Helios-65Ц 52mm f2.8
Jupiter-25Ц 85mm f2.8
Tair-38Ц 133mm f2.8
Rubin-1Ц 37-80mm f2.8

ゼニット-Eシリーズ

セレン露出計付き
ゼニット-E
ゼニット-EM
ゼニット-ET
ゼニット-10
ゼニット-11
露出計なし
ゼニット-V, ゼニット-B
ゼニット-VM, ゼニット-BM

TTL測光M42マウントカメラ

ゼニット-TTL
ゼニット-12
ゼニット-12xp, ゼニット-12sd
ゼニット-122
ゼニット-122V, ゼニット-122B
ゼニット-312m
ゼニット-412DX
ゼニット-412LS

TTL測光ペンタックスKマウントカメラ

ゼニット-122K
ゼニット-212K

特殊マウントのカメラ

START
ゼニット-7
ゼニット-D

M42マウント半自動カメラ

ゼニット-16
ゼニット-19
ゼニット-18
ゼニット-MT-1 Surprise

ゼニット-Axシリーズ（ペンタックスKマウント）

ゼニット-Automat, ゼニット-Auto
ゼニット-AM
ゼニット-AM2
ゼニット-APM
ゼニット-APK
ゼニット-KM
ゼニット-KM plus
ゼニット-14

ゼニット-DFシリーズ（Seagull製ミノルタ/ロッコールマウントカメラ）

ゼニット-DF-2
ゼニット-DF-2ETM
ゼニット-DF-300
ゼニット-DF-300x

フォトスナイパー

ゼニットのカメラにピストルグリップと銃床を装着したフォトスナイパーも特徴的な製品です。

FS-2
FS-3
FS-12
FS-12-3
FS-122
FS-412
少量生産品または試作品
FS-4
FS-4M
FS-5

L39マウントレンズ

RUSSAR MR-2 20mm f3.5

デジタルカメラ

ゼニット-M（ライカM typ 240ベースのデジタルレンジファインダーカメラ）
ゼニター-M（Mマウントレンズ：21mm F2.8と50mm F1.0）

引き伸ばし機

UPA-5
* UPA-6

まとめ

ゼニットは、旧ソ連時代から続くカメラブランドとして、その歴史の中で数々の変遷を遂げてきました。初期のシンプルな設計から、M42マウントへの移行、そしてペンタックスKマウントの採用まで、時代の変化に合わせて進化を続けてきました。現在ではデジタルカメラも開発され、その技術は今もなお受け継がれています。

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