ソチミルコ

メキシコシティの楽園、ソチミルコ：歴史、文化、そして自然の調和

メキシコシティの南28kmに位置するソチミルコ区は、16の管轄区域の一つとして、独自の文化と歴史を現在も色濃く残す地域です。ナワトル語で「花の野の土地」を意味するその名は、運河に咲き乱れる花々と、チナンパ（水上農園）の美しい景観を見事に表しています。コヨアカン、トラルパン、イスタパラパ、トラウアック、ミルパ・アルタといった区に囲まれたソチミルコは、2005年時点の人口は約40万人を数えます。

ソチミルコの地理と自然環境

ソチミルコ区の面積は約122平方キロメートルで、メキシコシティ内では3番目に広大な区です。北部はメキシコ盆地南部の平地が広がり、平均標高は約2200メートル。南部は標高2500メートルを超えるテウトリ火山やソチテペク山など、火山性の丘陵地帯となっています。

この区を特徴づけるのは、何と言っても複雑な運河網です。かつてはソチミルコ湖の一部だったこれらの運河は、今もチナンパが浮かぶ独特の景観を作り出し、1987年にはメキシコシティ歴史地区とともにユネスコの世界遺産に登録されました。かつてメキシコシティの食を支えた近郊農業地帯であったソチミルコでは、現在も農業は盛んに行われていますが、運河の埋め立てが進み、その多くは観光地へと姿を変えています。世界遺産登録された運河網も、住宅開発の圧力にさらされています。

わずかに残されたソチミルコ湖は、絶滅危惧種のメキシコサンショウウオの貴重な生息地となっています。区内にはソチミルコ生態学公園やボスケ・デ・ナティビタス公園などの自然保護区が整備され、ガマ、Schoenoplectus americanus、ホテイアオイ、Salix bonplandianaなど多様な植物が生息しています。2004年には、ソチミルコとサン・グレゴリオ・アトラプルコ一帯の運河群がラムサール条約登録地となりました。

ソチミルコの気候は、雨季と乾季がはっきり分かれた熱帯性気候です。6月から10月の雨季には、季節風が大量の雨雲を運び込み、年間降水量のほとんどが降ります。一方、11月から5月の乾季は、11月から2月にかけては北極からの寒気団の影響で気温がやや低くなり、3月から5月は熱帯の気団が北上し、年間で最も気温が高くなります。平均気温は12度から15度と温暖で、氷点下になることは稀です。年間平均降水量は約1600ミリメートルです。南部の丘陵地帯では、北部平地より気温は若干低く、降水量は若干多くなりますが、高山気候とはなりません。

ソチミルコの豊かな歴史

植民地時代以前

ソチミルコにおける最初の集落は、紀元前200年から紀元250年頃まで遡ると考えられています。この初期の集落は、メキシコ盆地南部で栄えたクィクィルコ文明と何らかの関係を持っていた可能性があります。古典期には、テオティワカン文明の支配下にあったソチミルコは、テオティワカン崩壊後、テオティワカンからの旧住民やメソアメリカ北部からの移民、特に大旱魃を逃れてきたチチメカ族を受け入れました。

10世紀から14世紀にかけて、ショチミルカ族がメソアメリカ中心部へ移動してきて、クァイラマを祭祀の中心地として建設しました。ソチミルコ周辺の山地からは、先コロンブス期の絵文字などが多く発見されており、彼らの宗教儀式に関係するものであると考えられています。ショチミルカ族は、チナンパ農法の開発者、あるいは改良者として知られ、ソチミルコ湖の湖岸、トラウアックやミスキックなどの島々、アフスコ＝チチナウツィン山地などに広く居住していました。ナワトラカ族が11世紀から14世紀にかけてこの地に住むようになると、チナンパ技術は最盛期を迎えました。チナンパとは、アシなどの草を積み上げて水面に浮かべ、湖底から泥を集めて載せ、その上で穀物や野菜を栽培する農法です。

アステカ族は、ショチミルカ族を遠い親戚とみなしていました。同じ神話上の故郷であるチコモストクを共有していたからです。伝説によれば、アステカ族は、メキシコ盆地への移動中に既にソチミルコに定着していたショチミルカ族と遭遇し、後に幾度かの戦闘を経て、1430年、アステカ王国に併合されました。ショチミルカの民は、アステカの首都建設などに強制労働を課されました。

スペイン植民地時代

1521年、スペイン人によって征服されたソチミルコは、最後の支配者アポチキヤウツィンがキリスト教に改宗し、ルイス・コルテス・セロン・デ・アルバラードと改名しました。その後、フランシスコ会宣教師によるキリスト教の布教が進み、1534年から1579年にかけてフランシスコ会の僧院が建設され、現在ではソチミルコ大聖堂の一部となっています。ソチミルコはスペイン王フェリペ2世によって市に昇格し、「高貴な都市ソチミルコ」と呼ばれるようになりましたが、植民地当局はチナンパ農法には関心を示さず、1609年には大洪水が起きました。天然痘の流行も大きな打撃となりました。ソチミルコとメキシコシティは、湖と運河による水運で結ばれていました。

19世紀と20世紀

メキシコ独立後、メヒコ州の一部となったソチミルコは、農業が主要産業でした。1850年にはメキシコシティからソチミルコへの鉄道が開通し、交通量が増加しました。1908年にはメキシコシティ＝ソチミルコ間の路面電車が開通、トラヒネラは観光用となりました。メキシコ革命期には戦場となり、1914年には「ソチミルコ綱領」が調印されました。1968年のメキシコシティーオリンピックでは、会場建設が行われました。20世紀後半には、メキシコシティとの都市化が進みました。

ソチミルコの文化と観光

ソチミルコには、メキシコ国立自治大学に属する国立造形芸術学校（ENAP）など、教育施設もあります。ソチミルコ考古学博物館、ムセオ・ドロレス・オルメド・パティーニョ（ディエゴ・リベラやフリーダ・カーロの作品を収蔵）など、文化施設も充実しています。

ソチミルコの運河は、チナンパとトラヒネラ（小舟）で有名な観光地です。祝日などには多くの観光客で賑わい、家族連れが船を借り切ってクルーズを楽しむ姿も見られます。

人形島

「人形島」と呼ばれるチナンパは、運河で亡くなった少女の魂を慰めるため、または他人を追い払うために、人形を吊るし始めた男、フリアン・サンタナ・バレッラにまつわる伝説を持つ不気味な場所です。現在では彼の甥が所有しています。

ソチミルコは、歴史、文化、自然が調和した、メキシコシティの中でも独特の魅力を持つ地域です。その美しい景観と豊かな歴史は、多くの観光客を魅了し続けています。

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